Bk(K)

□Eraser
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raser

:)01 謎の編入生



「編入生?」


もう、夏が来ようとしている季節だった。
雨のにおいが辺りをしっとりと湿らせて、地面を潤している。
俺がそう言うと、隣の席の吉野はクスリと笑った。


「ホント変な時に来るよなぁ。来るんだったら春先とか、そこらへんだろうに」

「…どんなヤツなんだろう」

「ばぁか、変わったヤツに決まってんだろっ」


コツン、と頭を小突かれた。思わず叩かれた部分を手で覆う。吉野は机の上に足を乗せ、更に足を組んでフッと笑った。


「女の子だったら大歓迎だけどね」


吉野は無類の女好きで、学校ナンバー1フェミニストだと思う。特に、昼飯のときなんて最低だ。クラスの女子に片っ端から声掛けて一緒に飯どお?なんて言うんだもん。片っ端はよくねえだろ、片っ端は…。



「つかオマエ、今日日直だべ?日誌は?」

「あ。…ヤバい! 取りに行ってくるわ!!」


日直なんてモン誰が作ったんだ。毎回俺が日誌を忘れて毎日日直ってどうよ?俺をいじめてるとしか思えない。
…忘れるのがいけないんだけどさ!

俺は職員室に向かって走り始めた。ちくしょう、帰宅部の俺に走らせるんじゃないよ、体力がないんだからさ!嗚呼かなしき哉ゆとり
教育!!


廊下の曲がり角になった。

(今は職員会議中だから、誰もいない筈)

構わずスピードを落とさずに走り続けた。すると、ドンという鈍い音が聞えて、ふいに、視界がぼやけた。


「―――って…」


どうやらぶつかったみたいだ。相手は痛いとも何とも言わない。俺は情けなく床に座った状態の体を起こし、相手を見た。


「、…え…」


こんなベタな出会いから、こんなベタな人が出てくるなんて。

俺の目の前に居るのは、光のような奴だった。太陽の光みたいに眩しくて、でも蛍光灯のように冷たいような光の。
瞳には何も映っていなかった。俺が映っているが、映っていないような感じ。透明なガラス、みたいな…。


「え、と…怪我とかは…?」


それが精一杯だった。相手もふるふると首を横に振っただけだった。俺はホッと安堵の溜め息をついた。


「良かった、じゃあ俺日誌取りにいかなきゃいけねーから、ま「―――場所、」


相手は俺の言葉を遮り、そう呟いた。え?と俺はほぼ条件反射で聞き返す。



「…場所、わからない」

「―あ、もしかしてオマエ、例の編入生?」


コクリ、と黙ってゆっくりと頷いた。俺は改めて相手の顔をじっと見た。
端正な顔立ち。色素の薄い茶色い髪。無気力な、細めの焦げ茶の瞳。

不思議なオーラが漂っていた。まるで、人間じゃないみたいだった。


「何組?」

「…多分…E組」

「――あ、マジ?俺もEなんだ。んじゃあ、日誌取って来るから一緒に行こうぜ」


俺がそう言うと相手は了承したのか、コクリとまた頷いた。俺が日誌置き場のところへ歩き始めたら、人形みたいなソイツはきいてきた。


「…名前、」

「うん?」

「――君の、名前…」


何でだろう?
コイツの言葉1つ1つが、音みたいに聞えてくる。綺麗な声だと思った。


「俺は、天沢 心!(アマサワ シン)オマエは?」


一瞬、気のせいかもしれないけど、一瞬だけ
コイツの目の色が変わった気がした。でも、やっぱり気のせいだったみたいだ。
何の色も染まっていない目で見つめて、こう呟いた。


「…白石…真(シライシ マコト)。白い石、に…真実の真」


名は体をあらわすとは、こういうことか。
白石は、まるで神話に出てくる審判の天使みたいな、謎めいた雰囲気だったから。


「白石、ね!じゃあ俺はオマエの友達第1号って訳だな」


俺がそう言うと、白石は苦笑しながらコクリと頷いた。コイツのテンションの高さは地上にあるとは思えない程の低さだと思う。


(…ミステリアスだ)


―――俺は、まだこの時には知らなかったんだ。
この出会いが、10年前のある出来事に繋がりがあるってことを…。

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