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□花よりも 後編
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「ありゃ、旦那ぁ。どーしやした?」
真選組の玄関先で沖田は不思議そうに銀時を視た。
「ちょっと、ヘマしちまってよ… へへっ」
銀時の手には手錠がはめられている。その手を沖田に見せジャラジャラと音を鳴らした。
「ぶち込んどけェ!明日から取り調べだ。」
銀時を沖田に投げた。
ドッサッと胸元に倒れ込む銀時を沖田は受け止め
「それじゃ旦那ぁ。いきやすか。でも俺の部屋はちょっと、色んな意味でヤバいですがねぇ。」
沖田は黒い笑みを浮かべた。銀時の顔は引きつる。
「いや…沖田くーん… 銀さん一応、こんなの着いてるしさぁ… 」
「あぁ、わかりやした。」
沖田は懐から鍵を取り出し手錠を外した。
「えっ…?」
「総悟ぉお!!!テメェエ!何しやがるゥウ!!!」
「へっ? 何がです。土方さん。」
「何がじゃねー。何勝手に外してやがんだ総悟ぉお!」
手錠を手に持ち沖田はクルクル回す。
「コレの事ですかぃ。大体、旦那はこんな物付けなくても逃げやせんぜぇ。それに、土方さんの方が大分やべーんじゃねーですかぃ?」
沖田は土方の躯に上から下へと視線を落とす。銀時と交え明らかに、土方の方が傷を負っていた。
「別に大したことはねー。ぶち込めと言ったはずだ!」
「まぁまぁ。落ち着きなせぇ。大方、高杉にでも逢ってたんでしょ、旦那は… 」
土方の瞳孔が開き
「総悟っ? 何故… 分かるんだ… ?」
沖田は口端だけを上げ
「この時期だけは土方さん。あんたは許してたのに、今年は… 駄目だなんて旦那が怒るのは無理もねーやぁ。」
「許す… ?俺が!?何でだよ!」
「土方さん。前にも言いやしたが… 自分で考えなせぇ。」
土方はポカンと口を開けたまま動かない。第一級危険人物の高杉 晋助と逢うことを、真選組の副長である自分が許す事など、絶対に有り得ない事。
だか、沖田は言ったこの時期だけは許していたと… 沖田が冗談を言ってる風でもない。
何か有ったら俺が責任を持ちやすと、言い残し沖田は銀時を連れて行った。
土方は自室に戻り考える。何故… 許す事が出来たのか…あの銀色を視て… 心が騒ぐのは何故か…
分からない…
土方の自室の障子が開き近藤が顔を出す。
「トシ、万事屋をしょっぴいたって?どーゆう事だ?」
「高杉と逢ってたんだよ… 」
近藤は顔をしかめ頭を掻く。
「高杉かぁ… もうそんな時期なんだなぁ… 」
土方は頭を捻る。近藤までもがまるで銀時が、高杉と逢う事を承諾しているかのようで。
「… なっ… んで…」
「ん?どーしたトシィ?」
困惑した表情で土方は、近藤に掴み掛かる。
「何でだよ!何であの高杉に逢ってたのに、総悟や近藤さんまでもが、当たり前のようにしてんだァア!!!おかしいだろっ!」
「トシィ… お前の気持ちも分からんでもないが… この時期はなぁ… しょうがない…」
「しょうがないって!んでたよォオ!!!近藤さん!… なんで…なん… で… 」
土方の瞳から雫が墜ちていく… 近藤は土方の黒髪を子供、をあやすように優しく撫でる。
「分からないんだよ… 万事屋を想えば… 胸が痛ぇし、高杉の事だって、どーして… 俺が許すんだ… 自分自身が…分かんねーんだ…近藤さん、万事屋と俺はどーゆう関係なんだなぁ… 教えてくれ… 頼むよ… どーにかなりそうだ… 」
「なぁ… トシィ… 」
近藤は土方の背中をポンポンと叩き
「お前は自分自身の瞳で視て、納得するまで確認して、筋の通らねー事は嫌いな男だ。俺がトシと万事屋の事を喋っても、今のお前は混乱するだけだ。」
「だけど、聞くぐらいは… 」
近藤は首を横に振る。
「駄目だ。何年掛かろうが自分で思い出すんだ。万事屋も待ってる。」
「もし、思い出せなかったら… 」
「トシにとって万事屋は、その程度だったって事だなぁ。」
「その程度って?はぁっ、苦しいんだよ… 近藤さん… 頭が… 痛ぇ… 」
近藤は土方の両肩を力強く握り締め
「トシ!お前なら大丈夫だ!万事屋の事を思い出せる。ゆっくりでいいんだ。ゆっくりでなぁ。」
近藤は土方を抱き締めてやる。静かに涙を流す土方は、小さな子供のようだ。
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