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□花よりも 前編
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「あっ!」


「んっ!どーしたぁ。」


俺の後ろを歩いていた、銀時が声を上げた。市中見廻りを交代して、屯所に帰る途中ばったりと、銀時に出会した。



「ご苦労、ご苦労。」とヘラリと笑い、俺の肩を叩いて来た。


何処に行こうとか言ったわけでは無いが、俺達二人はぶらぶらと散歩をしていた。



「視て視ろよ。梅の花が咲いてるぜ。」

俺は煙草に火を点けあぁ、とだけ告げた。銀時はそんな俺を視てあからさまに、不機嫌な顔をして


「テメェは何で、そんな風にしか応えらんねーんだよォ!」


「はぁっ!普通だろ。暖かくなりゃよォ、花は勝手に咲くんだよ。」


「ゲェ〜〜〜!駄目だわこの人!そんなんだから、テメェは女心が分かんねーんだよォ! なのに、無駄にモテんのは何でかなァア!あーーーあ!腹立つゥウ!」


ゲッシっと俺の脚を蹴ってきた。


「テメェがモテねー事を、人のせいにすんじゃねー。」



俺もお返しとばかりに、蹴りをお見舞いするが、あっさりと交わされてしまう。

「天パじゃなけりゃ、今頃は銀さんモテモテだよォ。多串くんの出る幕ないよ。困るだろ〜。そうなったら、だって多串くん銀さんにめった惚れだもんなぁ」


にやにやと嫌みたらしく笑う銀時。



「あ"あ"ん!誰がめった惚れだっとコラァア!自惚れんのも大概ににしやがれ、コノヤロォオ!」



「ありゃりゃ… そうなの… へぇ〜そうなんだ〜」



顎に手を当て小さく何度も頷く、目の前の綺麗な恋人に心底腹が立つ、実際のところ確かに滅茶苦茶に惚れている。



それは認めよう。認めますともォオ!!!だが本人を前にしては、流石に言えない負けを、認めてしまうみたいで癪に触る。



「花より団子の癖しやがって、何が女心だ馬鹿やろ!」



「はぁあん!それじゃ、何かテメェは花よりマヨかぁ?それとも、花よりニコチンかぁあ!はたまた、ヘタレなのかぁ?」



「ヘタレって何だ?ヘタレってェエ!」



ギャーギャーと大の男二人が、言い合いをしていたら、遊びに来ていた子供に笑われ、何だかばつが悪くなりそっぽを向いた。



「もうじき、桜も咲くなぁ… 」



梅の花を視ながら銀時が呟く。



「そうだなぁ。」



「そうなりゃ、花見で飲んで飲んで、飲みまくりだ!テメェの奢りで!」



土方を指差す銀時。


「んなぁっ!!アホかァア!何でテメェに金出さなきゃなんねーんだよォオ!」



「そんじゃ、税金ドロボーさんの花見に参加するわ!」



「だーれが真選組の花見に、参加するだァア!大体、テメェとこと関わると、ロクな事がねー。却下!」



「ありゃりゃ… 認めちゃったよォ… 自分達が税金ドロボーさんだって… プッ…」



口に手を当てクスクス笑う銀時を視て、土方のこめかみがピクピクと痙攣を起こす。


腹が立つので煙草の煙を、銀時目掛けて吹いてやる。臭っ と言いしかめ面をする銀時。



それを視て土方は鼻で笑い、先へと歩みを進める。春の日差しが穏やかに降り注ぐ。


不意に銀時がクイクイと、土方の隊服の裾を引っ張る。



「なぁ… 桜は綺麗なのに… 何であんなに儚いんだろなぁ… 」



俯きながら銀時が小さく呟いた。その姿が余りにも小さすぎて、土方は思わず言葉を失った。


袖を引っ張る銀時の手を掴み、土方は力強く抱き寄せた。


「儚いって、何でそう思うんだ?」



「桜は一気に咲いて… あっという間に散って… 」



土方は銀時の柔らかな銀髪を優しく撫で


「だかよその間、桜はでけーぇ仕事すんよなぁ。」



「仕事?」



「桜が咲けば人が集まり酒を飲む。人の心を魅了して離さない。綺麗な桜… だがな… 銀… 俺は一年に数日咲く桜よりも… 」



土方は銀時のインナーに手を掛け、肌を露わにする。



「ちょっ///何すんだ?!」



「俺はこの白い肌に咲く華の方がいいがなぁ… 」



夕べ土方が銀時に付けた、赤い華に指を這わす。銀時の躯がピクリと反応する。


「今日も咲かせに行ってもいいかぁ… 銀… 」



銀時の頬が高揚する。土方の手を払いのけ



「いやなこった。毎度毎度、付けられちゃたまんねーんだよォオ!それに、何だ… その… 神楽をだなぁ… 言いくるめるのだって… 結構… 大変だ… し…」


「銀… 駄目なのか…」


縋るような眼で銀時を見てくる土方。


くっそ〜!この眼に弱いって、コイツは知ってるくせに!



「あーぁ。もう!テメェ、駄菓子屋ごと買えよ!いいなァア!」


今度はスタスタと土方の前を歩き出す銀時。土方は自分の顔が緩むのが分かる、銀時の頬が桜色に染まっていたから。










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