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□金平糖
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コットン、テーブルの上に土方が、瓶を置く音がする。その音を蒲団の中で聞く。
土方は躯を重ねた後は、俺を起こさぬよう静かに出ていく。別に情事後の甘い言葉とかを、期待してるわけでもないし、次の約束とかそんなのも要らない。
そう、その筈だった。お互い手っ取り早く気持ち良くなって、後腐れがない関係を望んでた筈… だったのに… 。
テーブルの上にある小さな瓶を、襖に寄り掛かりながら、ボンヤリと眺める。
土方ァ、お前は何を考えてんだ。
瓶を拾い上げた。「今日も、金平糖ですか。」独り呟き、口に一粒放り投げた。
最初の内は如何わしい宿とか、ちょっと、外でェみたいなァ、感じでヤッテたんだけど。いつの間にか土方は、万事屋に来るようになって、ソンでコノ小さな瓶を必ず、置いて帰るようになった。
初めは蓋を開けて、ガーッと口に流し込むように入れて、モッサモッサ食べてた。
だけど?
何時からだ?
一粒一粒を大事に?
大切に食べるようになったのは?
土方を想い?
今度は、いつ?
逢えるのだろう?
ぐっ、ぐっぐぐぐぐ!!俺、今、何考えてたァ!土方を想い?!ナイナイナイナイナイナーーイ!
断じて、イヤ、断固として!金平糖をチラリ視て溜め息。分かんねぇよォ…。銀髪をワッシャワッシャ掻き、蒲団に潜り込んだ。
相変わらず万事屋は暇で、何時ものようにソファーに横になって、俺は愛読書のジャンプを読む。その向かい側のソファーに同じく、神楽が寝そべり酢昆布をしゃぶる。新八は小姑のように、文句を言いながらお掃除。ご苦労さん。
「銀ちゃん。」
「ん?何だァ?」
「コレ、キラキラして凄い綺麗アル。」
「はぁ?キラキラって何?あっ、」
神楽が手に持ち光に翳す物は、あの金平糖の瓶。
薄い碧、濃い碧、白に翠色が混ざり合い、光を受けキラキラと輝く。それはまるで、
「… 海、だなァ…。」
「海?」
波間に揺れ大きな海に、ゆったりと自分自身が、浮かんでいるような、静かであぁ、何て言うか、とても幸せな気分になる。
アイツがくれた色。他にもいろんな色があった。もっと視てみたい。他の色は何を魅せてくれるのか、視てみたい。
町に出て金平糖を探す。何処にでも売ってそうなのに、なかなか見付からない。
あのバカ、何処で買ってンだよォ!
見付からない。アイツに聞くのも癪だし。
「ココならあるヨ。」
神楽お気に入りの駄菓子屋の前で、脚を止めた。
「ねぇ、銀ちゃん。酢昆布色はないアルか?」
「はぁっ?酢昆布色ってお前、」
「だって、そしたら私、酢昆布に全身包まれて、幸せアルよ。」
神楽さん…、幸せって… 気色悪いんですけど… 。
「ないアルか?ないアルか?」
「ねぇよォ!大体、気色悪いだろっがァ!ってか、クネクネすんなァ!」
神楽はその色を想像してか、目を瞑り全身を揺らしている。
神楽が言う幸せ色?ンじゃ、俺にとっての幸せ色は… ?包まれて幸せになる色は…
「営業妨害かァ?お前ら。」
振り向けば煙草を吹かす、黒いヤツ。
「違ぇよォ!バーカ!」
「バーカ!」
「プッ、」
「なっ、なななななにが可笑しい!」
「イヤ、で、何を視てンだァ?」
土方は銀時の横に並ぶ。煙草の匂い。サラサラの髪の毛に、優しい眼差しに、黒い色で… 黒い、い、ろ、俺の幸せ色は…
「金平糖アル。」
「金平糖?」
「銀ちゃんの部屋にあったネ!太陽にあてると、幸せな色に変わるアル。」
「…幸せな、色。」
「だから他の色も!グッ!!」
「かっ、神楽ちゃん!何言っちゃテンのォ!」
慌てて神楽の口を押さえた。
「どーした?お前、顔が朱いぞ?」
土方の手が伸び髪の毛に、触る寸前で叩いた。
触るな、触るな、気付かれて仕舞う。俺の探す物を。だから、触れんな… 。
「触んじゃねぇ。」
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