A

□あの日
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初めて肌を合わせたのは、どんよりとした厚い雲が、江戸の町を覆い空がとても低く、頬に当たる風は突き刺さるように冷たい、そんな日だった。




重なり合う躯は思いの外温かく、耳にする音 全てが新鮮で俺を虜にした。透き通る白い肌に甘い香り、だが唯一、今まで抱いた女とは違う、なんのおうとつもない、俺と何ら変わらない躯だった。





土方は煙草に火を点け、深く吸い込み空を見上げ、煙を吐き出す。紫煙は風に吹かれ直ぐに消えた。


肩に巻いてあるマフラーを、耳元まで上げる。




冬の巡回は寒さが骨身に凍みる。空気が澄んでいるせいか、星が綺麗な光を放つ。



こんな日は大概、何も起こらない。あるとすれば火事ぐらいか…



「寒ーぃ… 寒ーぃ!!何とかしてくれやせんかねぃ!土方ァコノヤロ!」



「あぁん!知るかァア!俺がどーこう出来るかってんだよォォォ!」



「役に立たねーヤローだぜぃ。」



沖田は顔を半分以上マフラーにうずめ、両手はズボンの中だ。



「総悟ぉ。せめて手は出そうや!」



「イヤでさぁ。死んじまう。」



「死ぬかァア!テメッ、今斬り掛かられたら、どっすんだァ!」



沖田は馬鹿にしたような瞳で土方を視た。



「大丈夫。そん時ゃ… 土方さんに盾になってもらいやす。」



「誰がなるかァア!総悟ぉ、何なら今から俺がテメェを、たった斬ってやろうかァ!」



土方は腰の物に手を掛ける。



「ォャォャ‥ 土方さん。冗談はマヨネーズだけにして下せぇ」



「マヨネーズ今、関係ーねっだろっがァア!コラァア!!!」



寒空の下、鈍く光る物が風を斬るが、沖田はヒョイヒョイと交わしていく。



「チョコマカチョコマカとよォ!大人しく斬られやがれェ!総悟ぉ!」



「俺が居なくなったら、泣く女がいっぺー居るもんでねぃ。」


「喜ぶ女だろがァア!」



土方は沖田の胸倉を掴んだ。さて此からと言うときに、間の抜けた声がした。



「オイオイ、こんな寒い日にチャンバラごっこですかァ!コノヤロ!全くどんだけ元気なんだよ。テメェらぁ。」



「ありゃ、旦那ぁ。」


沖田が土方を払いのけ銀時へと近付き、その姿に土方は、小さく舌打ちをした。


「珍しいですねぃ。寒い中、旦那が居るなんて。」




「まぁなぁ、大体、炬燵の中で銀さんぬくぬくだったんだよ‥」



銀時はブルリと震え溜め息を吐いた。



震える躯… 今直ぐにでも暖めてやりてーなぁ‥




「家の憎たらっしーい神楽ちゃんがさぁ、何を思ったかいきなり、肉まん食いてーとよヌカしやがって、銀さんあんまん派だからァ、無理だっつうたら… ちょっと銀さんの人生が今、終わっちまう雰囲気になっちまって… あ〜ぁ… 嫌だねー。女って… はっむっ。」




銀時はあんまんを美味しそうにかじる。


「旦那ぁ。俺にも一口分けて下せぇ。」


銀時は んっと、自分の食べかけを、沖田の口へと運ぶ。いただきやす 沖田はパクリと食べた。



二人のやり取りをただ黙って、見ていた土方だったが沖田が、あんまんに食い付いたと同時に、煙草がポトリと地面に落ちた。



「ちょっとォ、多串君。煙草のポイ捨て禁止なァ!」



「ほん、クチャ、とに、グチャ、まっ、たく、モグ、だらし、モグ、ない、クチャ、ヤローだぜ。旦那ぁ。ごちそうさま。」



「あぁ。そんじゃ。」


「ほ〜い。また。」




「ウッダラァアァアア――――――ァア!!!」




「「はぁっ、い!?」」



土方の雄叫びに二人の動きが停止した。





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