ー外伝ー【もう一人のトラブルシューター】
□第4撃【伝説の星・4】
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先頭をきったあたしの前に男が現れた。
あたしはフローリングの床を力強く踏みつけて、跳びたあがった、左足を振り抜いて男の首を蹴り飛ばす。
「ぁあ゛なっぶぁ?!」
なにかを言おうとしたらしいが変な叫びをあげて男は壁に当たり倒れた。
「ナイスパンツ。」
後ろから紅さんの声がしてあたしを数人が追い抜いて先に行く。
……どうでもいいこど、ナイスソバットって言ってほしいな。
「止まるな走れ」
タカシさんに背中を押されてあたしは走った。
先に進むとなにか焦げるにおいがして、重田興業のチンピラはなにもいわずにその場にへたりこんだ。
誰かがスタンガンをつかったようだ。
マンションの狭い廊下に足音が響いた。
いったい何人いるのかわからない乱れた靴音だ。
あたしがリビングについたときには残るひとりのチンピラもうしろ手をコードで止められて床に転がされていた。
反撃を試みたのか、可哀想に紅さんに頭を踏まれている。
ソファで凍りついていた神宮寺が、恐ろしいものでも見るようにあたしを見た。
あたしはやつにウインクしてやった。
もっとも黒の目だし帽越しだから、神宮寺にはあたしが誰だかわからなかったかもしれない。
最初の突入から百五十秒後、半数のSウルフをその場に残して、あたしたちは404号室を離れた。
走り出したメルセデスのなかで、神宮寺はいった。
「ありがとな。それにしても鮮やかなもんだったな。池袋エンペラーとSウルフはだいぶ違うみたいだな。」
タカシさんは氷のように冷たく笑って答えなかった。神宮寺はいう。
「それで、おれとミレイはこれからどうすればいい。」
あたしは目の前を流れていく池袋西口の月曜日を見送っていた。
「あと三時間もすれば、すべて片がついてるはずだし。どこかに隠れてて。そのあとは遠くにいって、しばらくは池袋には顔をださないほうがいいわね。」
メルセデスは池袋大橋にさしかかった。
下り坂の途中で、あの空き地がほんの一瞬だけ見えた。
金属のフェンスでかこまれたあんな雑草だらけの土地に、それほどの価値があるなんてあたしには不思議だった。
あたしは運転手にいった。
「本郷さん。グリーン大通りでおろしてください。」
クルマは首都高のしたをゆっくりと流した。
神宮寺のほうをむいて最後にいった。
「もう会うことはないかもしれないね。でも、アナタの新曲はよかったよ。いつかヒットするといいね。謝礼はそこにいるタカシにわたしてあげて。」
神宮寺は王様にうなずくと、あたしを涙目で見た。