ー外伝ー【もう一人のトラブルシューター】
□第2撃【伝説の星・2】
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タカシさんと別れて、ステージ裏に向かった。
いつの間にか重田興業の男たちは消えている。
神宮寺は真っ赤なタオルで汗をぬぐいながらいった。
「おう、リッカ、どうだった。」
「よかったよ。とくに新曲がね。」
神宮寺は立ち上がると、おおきく伸びをした。
「ようやく身体があったまったところなんだが、警察のやつらがくると面倒だ。おれたちもさっさといこう」
ボディーガードとバックコーラスの女が神宮寺の両脇をかためた。
フェンスの切れ目に向かって雑草の空き地を歩いていく。
あたしは神宮寺の疲れた背中にいった。
「どこにいくの?」
やつは振り向かずにいう。
「今日の礼をおまえにもしなくちゃいかんだろう。ちょいとつきあえよ。」
あたしたち四人がいったのは、歩いてほんの数分の池袋西武だった。
土曜日でもまだ時間が早いから、デパートのなかはそれほど混雑ではなかった。
エスカレーターをのりついで、五階まであがる。
冬のセールの最中なのだが、神宮寺はバーゲンには目もくれずに一番南の高級店ゾーンにむかった。
まえをとおりすぎたことしかないエルメネジルド・ゼニアのブティックに入っていく。
壁のハンガーを埋めるスーツを無視して、店の奥にある姿見のまえに立った。
店員は神宮寺のことを知っているようだった。
にこやかに挨拶している。
あたしの格好は、シルバーのプリーツスカートにコンバースのバスケットシューズ。
ノンブランドのTシャツにジャケットを重ねている。
ブラとショーツは…おいといて、総額でも一万円に届くかどうかというデフレ上等のひと揃いだった。
ブティックの奥から神宮寺が叫んだ。
「おい、リッカ。採寸に時間がかかるんだ。はやくこい。」
あたしはバッシュの底に泥がついていないか気にしながら、やわらかな絨毯を踏んで、初めての店に入った。
神宮寺のいうとおり採寸に三十分近くかかった。
上着を脱いでシャツ姿になった店員が、あたしの身体をメジャーで測り、つぎつぎとクリップボードに記入していく。
ネック、バスト、ウエスト、袖丈、股下。
いざとなると人間の身体というのはいくらでも測る部位があるのだ。
神宮寺はそのあいだにやにや笑いながら、革のソファに座っていた。
ときどき緊張で無表情になったあたしに話しかけてくる。
「スーツをあつらえるのは初めてか」
あたしはうなずくと、やつは 鏡越しにいった。
「おれはお前を調べた。池袋の裏の仕事の噂も、ずいぶん調べあげてる。お前はなかなか動けるし、いつかもっとでかい仕事をするようになるだろう。女でもきちんとしたスーツをひとつ用意しておいたほうがいい。」
店員があたしの肩に生地のロールを当てている。
カシミアかシルクみたいな手触りのイタリア製のスーツ生地。
「そんなものかな。」
やつは紺地にグレイのチョークストライプが入った生地に首を横に振った。