ー外伝ー【もう一人のトラブルシューター】
□第2撃【伝説の星・2】
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新曲に全精力を注いだ神宮寺は、アンコールでまた『涙のサウダーチェンジ』をやった。
今度はアコースティックバージョンで、しっとりした歌と演奏だった。
メインディッシュのあとの軽いデザートみたいな口当たり。
最後にロックミュージアム万歳と叫んで、神宮寺はステージからきたときと同じ速度で駆けおりていった。
観客は散らばり始めている。
タカシさんはあたしを見ていった。
「なかなかのもんじゃないか。特に新曲」
「同じ。あたしもそう思った。今度あたしバージョン聞きます?覚えたし。あたしの歌をきけー…あっ」
「お前はその口調のほうが地だな。」
「フッ…」
あたしは口を押さえた。
興奮すると、つい誰彼なしにおかしな話し方をする。
「コホン。」
あたしは咳払いをして、神宮寺からもらった封筒をタカシさんに手渡した。
「今日のギャラです。」
タカシさんは本郷さんをチラリと見る。
本郷さんが受け取り。
中身も確かめずにタキシードジャケットの内ポケット封筒を滑らせた。
…この人がほんもののヘルムート・ラングならあたしの月収より高いはずね。
「ついでだから、このあとS・ウルフの集会をやる。リッカ、お前はどうする。」
あたしはステージ裏に消えた神宮寺を視線で探していた。
「悪いですけど、パスで。ちょっと…気になることがあるから。」
タカシさんはあの毛皮の女に負けないほど冷たい視線であたしを見た。
理由はタメ口で話してるからじゃない。
「…あまり深入りするなよ。おまえが頼まれた仕事は、もう十分に果たした。何にでも首をつっこむのは悪い癖になるぞ、悠がいい例だ。リッカ」
王様はそういうと、近くに控えていた家臣団のほうへ歩いていった。
「はーい、気を付けまーす。」
あたしが後ろで叫んだが、タカシさんはなんのリアクションもとらなかった。
「さて…行こうかな。」
だって、仕方ない。
あの歌をきいたあとでは、あたしは神宮寺を放っておけなくなっていたのだ。
何度新年を迎えても、おせっかいもいいところのあたし。
それともこんな余計な心配が、実は生きてることのスリルなのかしら。
こんど、悠くんにも聞いてみようかな。