ー外伝ー【もう一人のトラブルシューター】

□第2撃【伝説の星・2】
4ページ/10ページ

『涙のサウダーチェンジ』が終わると、休む間もなくつぎの曲が始まった。

今度は明るい感じのメジャーなポップロック。

あたしはエイトビートで身体を揺すりながら、即席のコンサート会場を見わたした。


客の種類はふたつだ。
黒人系のストーリートファッションに銀のワンポイントを飾ったS・ウルフのボーイズ&ガールズ

神宮寺が集めたフィフティーズファッションのロックンローラー。

ステージのまえに固まっている集団を離れて、スーツ姿の男たちがいる。

こちらは客というより、仕事の雰囲気だった。

銀行員は妙におとなしい灰色や紺のふたつボタンのスーツですぐにわかった。

そのほかに黒いスーツに原色のシャツやネクタイをあわせた水っぽい団体がいる……?

神宮寺がいっていたこの空き地の持ち主の不動産会社関係なのかしら。

けど…そこにいるのは、それだけではなかった。

ステージの裏では、さっきのボディーガードとにらみあうように数人の男たちが、音楽にはまったく心を動かされない様子で立っていた。

「…?」

あたしはタカシさんの耳元でいった。

「あの、タカシさん。あそこのやつら知ってます?」
「さんはつけるな。」

タカシさんはステージから目を話さずに返事をする。

「見覚えがある。」

「どちら関係です?」

「たしか、重田のチンピラじゃないか。」

重田興業は池袋にある中小組織のひとつね。

東口の風俗街にいくつか利権をもっていて、この不景気でもなんとか持ちこたえているようだった。

最近はあっちの世界も不況のどん詰まりで、なんとかしのいでいくために構成員が空き巣や強盗なんかに手を染めるという。

稼業違いもいいところ。

重田興業のしたっ端が、なぜ神宮寺のギグに顔をだしているのかしら。

別にロックンロールなんて高尚な趣味があるようなやつらには見えなかった。

三人の男たちは獲物を教えられた猟犬のように、ステージをいききする神宮寺の背中をにらみつけていたのだ。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ