ー外伝ー【もう一人のトラブルシューター】

□第2撃【伝説の星・2】
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店まで送るという神宮寺の誘いを断って、あたしは東口のネオン街を歩いた。


お正月の昼間だって、ヘルスやのぞき部屋やセリクラのネオンは点灯しっぱなしだ。

縁起をかつぐ風俗店のまえには立派な門松がでて、打ち水がしてあったりする。
池袋の爽やかな正月の光景ってやつね。

まぁ、あたしは昔からいるから風俗街も違法ロリコンソフト屋も正直見慣れたから平気なんだけど。


あたしはウイロードに向かってぶらぶら歩きながらスカートのポケットから携帯を抜いた。

キングの電話番号は短縮に設定してあるから、画面を見ずに選択した。

とりつぎがでると、リッカだといった。

王さまの声はあたたかな冬でさえ、氷柱のようにとがっている。

『なんだ、リッカ』

あたしは精いっぱいのよろこびを込めていった。

「新年あけましておめでとうございます。たか…」

ガチャ…つーつー…
一言でガチャ切りされた。少し腹が立つ…

即座にリダイアルした。
キングはまるで反省していない声でいう。

『用件だけ話せと、いつもいっている。お前も悠もわからない奴だ。…今回はなんだ。』

冷たい王さま。あたしはため息をついていった。

「タカシさん。神宮寺貴信って歌手兼俳優、知ってますか。『涙のサウダーチェンジ』ってヒット曲があるんですけど」

『知らない』

「えーと、ですね〜♪〜♪♪」

あたしは誰でも知ってるサビの部分を歌おうとした。

『あと…三秒やる。3・2…』

「ちょ!待って!」

また、ガチャ切りされたら傷つくから慌ててやめた。

「その、神宮寺って男がつぎの土曜日、池袋大橋のわきの空き地でギグをするんです。」

『…続けろ』

「昼の十二時から二十分くらいだそうです。神宮寺はその空き地にロックの博物館をたてるらしいです。金をかりる銀行の男たちに、集客力があるところを見せておきたいらしいです。」

S・ウルフの王さまの声はつまらなそうだった。

『なんだ。また平和な話だな。去年の秋からこっち、なんの動きもないんだ。お前も悠みたいに、たまにはもっとスリルのある事件でももってこい。』

あたしと悠くんを引き合いにだすのは止めてほしい。

『まぁいい。で、何人くらい用意すればいいんだ。』
あたしは携帯片手に歩きながら、ミニスカートの女を見た。

最近増えてきたコリアンかチャイニーズの店の呼び込み。
なんの店かって?
…男の人はキモチイイマッサージのあるお店ね。

「えーと…二百人くらい。」

『…ギャラは?』

あたしは神宮寺の食えない面を思い出した。

すくなくともロック博物館にかけるやつの気持ちはまっとうなようだ。

「お金はあんまりないそうだから……八十万がぎりぎりかと。」

さして関心もなさそうに王さまはいう。

『そうか』

「土曜日の午後に拘束三十分で、ひとりあたり四千円になります。そう悪くない話でしょう。」

キングはどうでもよさそうだった。
たしかにこれは王さまに判断をあおぐような重要案件ではないのかもしれない。
『わかった。暇だから俺も顔を出してみる。じゃあな』

商談成立。
つぎからは絶対、あたしも仲介料をとることにしよう。

なにせ世の中はコネとアレンジがものをいう。プロデューサー時代だしね。
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