〜いきたかった処〜
 
 
慶応元年五月
 
 
カランカラン…
 
 
水の入っていた柄杓は、力を無くした手からすり抜け…落ちた。
 
 
俺の聞き間違いか?
  
 
しかし目の前の平隊士の拳は、血が滲むほど硬く、震えていた。
 
 
『なん…だって?』
 
 
俺は屯所中走り、彼を探した。
 
 
『山南さん!山南さん!』
 
 
鋭く開けたふすまの奥には、土方さんが両腕を組み、俺を待っていたかのように言葉を発した。
 
 
『藤堂君、江戸での出張ご苦労だった。何人募集があったかね。詳しい報告を聞きたい』
 
 
俺はそんな言葉が聞きたいんじゃない!
 
 
山南さんが何処にいるかだ!  
 
 
アンタなら知ってるんだろう? 
土方さん!
教えろよ!
 
 
そう頭で考えていても、言葉になって出てこない。
 
 
俺のただならぬ様子に、全てを感じとったのか…土方さんが
 
 
『山南さんが二月に切腹した』
 
 
と言った。
 
 

 
 

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