長編小説

□虐殺響遊戯(上)
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 逃亡?無駄だ。

 逃走?諦めろよ。

 逃避?意味がない。

 【虐殺響遊戯】第弐幕、開始。


★★★★★★★★


「チッ…」

 冬の真っ只中、穏やかな昼下がり。
 土方はイラついていた。
 最近やっと辻斬りが終わったら、今度はもっと質の悪い虐殺遊戯が始まったのだ。なぜか狙われているのは幕府の要人ばかりという事件、ほとんどの隊士を要人警護にあたらせたため、屯所には10人ほどしか残っていない。
 つい先刻、山崎から貰った分厚い封筒を手に、人気のない屯所の廊下を肩を怒らせて大股で歩く。
 腹立たしい。
 この頃土方の中を支配している感情だ。事件が立て続けにおきているのもあるが、一番の原因は近藤と沖田が隠し事をしている、ということだった。
 だてに長く付き合っていない。何を隠しているのかはわからないが、何かを隠しているのは確かだった。
 しかも事件に関わる何かを、だ。
「今日、病院に行って問い詰めてみるか…」
 そう決めると隊服のポケットからタバコを取り出し、火をつけた。
 静かに紫煙を吐き出すと気持ちも落ち着いてきたようで、タバコの火を消そうとポケットを探る。が、持ち歩いているはずの携帯灰皿がないことに気がついた。
「部屋かよ…」
 引き出しから取らなかったことを思い出し、灰が落ちる前にと、方向転換して早足で自室へと向かう。
 さほど離れてなかった所にいたのですぐに辿り着き、ふすまに手をかけ、開けた。
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