悪夢

□かりそめのかりそめ
2ページ/2ページ

 これだけでは俺が本当に人間なのだという証拠にならない。
「……」
 逡巡したあと、舌を突き出した。
 れろぉ、と。
 肉を皮膚を傷口を一一血を、舐めとる。
 溢れ出す赤い液体を次から次へと、次々と。
「へへっ」
 無邪気に笑う。口内一杯に、鉄の味が広がる。
 血液中にある赤血球。さらに赤血球の中にある蛋白質が鉄分を多く含むため、人間の血は鉄の味がするのだと、以前桂が言っていた。
 これで俺も人間だ。
 ホッと安堵すると、掌からがしゃんと鋏が滑り落ちた。
 左腕から全身に渡って段々冷たさが広がっていくのとは裏腹に一一、
 訳もわからず、頬には生温かい涙が伝った。






End...
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ