悪夢

□実刑的実験
2ページ/3ページ

 ドシュ!
 フランシスのレイピアが、後ろからアントーニョの左胸を刺し貫いた。
「これが…油断大敵っていうんだよ」
 フランシスが耳元で妖しく囁く。
 細長い剣身を伝い、赤黒い血がカップ状の護拳を無視してフランシスの手をしとどに湿らした。
「お兄さんいっちばーん。お兄さんカッコイ〜」
「相変わらず漁夫の利狙いかいな」
「……」
 空いている左手を高く掲げガッツポーズを決めるフランシスに、刺されたままのアントーニョは呆れ顔で言う。その間ギルベルトは無言だ。
 いつもなら突っ込みが入るタイミングに、不審に思った2人は前方の人物に声をかけた。
「あれ?ギルちゃん?」
「黙っとるけどどないしたん?まさか、もう意識飛んだん?」
「…なワケあるかよ」
 ギルベルトは低くケセッと笑った。
「おいフランシス」
「なーに?」
「漁夫の利ってのはなァ…」
 プシュ。
 喋るたび喉から血が漏れる。その喉から生えた穂先を力強く掴むと、掌に刃が食い込んだが一切気にしない。
 ギルベルトは穂先を掴んだまま力任せに一歩前進した。
「おっ?」
「へっ?」
 当然、ギルベルトを刺しているアントーニョ、アントーニョを刺しているフランシスも釣られて一歩進むことになる。
 と、フランシスの片足に何かが引っ掛かった。
 ドンッ!!
 どこからともなく飛来してきた短剣がフランシスの頭にぶっ刺さった。
 破裂した水風船のように飛び散る血と、弾けた脳みそがバシャア!とソファーにぶちまけられる。間近なため返り血をこれでもかというほど浴びながらも、アントーニョは「ヒュー♪」と称賛するように口笛を吹いた。
「漁夫の利ってのは、こういう事だぜ?」
 罠を仕掛けて正解だったと、ギルベルトがせせら笑う。
「あー…駄目駄目。全然スマートじゃないって。やっぱお兄さんじゃないと」
 頭に短剣を刺したまま首を振り、顔の半分以上が赤く染まったフランシスが言った。
「現時点でスマートさのカケラもねー奴が言うんじゃねえ」
「せや。フランシスめっちゃ怖いで。そのままホラー映画にでてきそうや」
「え?マジマジ?」
 だらだらだら。
 惨殺現場のような有様になった室内で、血を垂れ流しながら3人はいつもの様に盛り上がる。

次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ