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□願い星と境界線
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日付変わって11月10日。
深夜、ベルリン。
ワアア!と歓声が巻き上がる。国中は、歓喜に包まれていた。
向こう側から雪崩れ込んでくる人、人、大量の人の数。何十年ぶりの再会を果たした家族・友達・恋人は泣いて抱き合い、喜び跳ね回っている。
吐く息は白く身を凍らせるような寒さも、この場に限っては人々の熱気で全て吹き飛ばすぐらい、全員が浮き足立っていた。
世界中の幸せがここにある。国民がそう考えているように、ドイツも例外ではなかった。
「――兄さん!」
テンションの高い国民の間を縫うように走り抜け、未だ崩壊中の壁を目指すのはドイツだ。
やっと、やっとだ。
兄さん――プロイセンに、会える。
そう思うだけで心臓はドキドキと跳ね、体温が急上昇する。ここ最近で疲れが溜まっていたはずの体も足取りは軽い。かつて、こんなに嬉しいと感じたことはあっただろうか。
何百年、何千年と生きる自分達にとってはたかが28年くらいは短く感じるものだが、ドイツにとってはこの28年とは、永遠とも思えるほど長かったのだ。
でも、それも今日で終わりだ。
そこかしこに立てられた照明の灯りを頼りに足と目を忙しなく動かす。大分ベルリンの壁に近付いてきた。連絡もなにも取ってないが、必ずこの近くにいるだろうという自信がドイツにはある。
ごった返している人の中で、目立つ銀髪が目に入った。
いた!
とたんジワリと熱くなった目頭を振り切り、ドイツは銀髪に向かって震える声を投げかけた。
「兄さん!」
叫ぶが、周りの音にかき消されたのか銀髪は振り返らない。ならば、とドイツはもつれそうになる足を必死に動かして人混みの中をかき分けて進んだ。
銀髪の頭がどんどん近付いてくる。今度こそ届くように「兄さん!」と叫んで、辿り着いたその肩に手をかけた。
ところが。
「ん?」
銀髪の頭が振り返った。紅眼がドイツの姿を捉える。
ドイツは手をかけたままの体勢で固まった。感動のあまり、ではない。
男はプロイセンではなかったのだ。
「誰?おたく」
男はドイツを見て非常に面倒臭そうな口調で尋ねてきた。それはこちらの台詞だと、声をかけたドイツの方が思ってしまった。
髪色も目の色も問題ではない。男の服装が、和服を改造したような妙な服なので驚いたのだ。ドイツ国民以外がここにいることは可笑しくない。だが、この服装はなんなんだ。
あまりの事態にドイツが思考を停止させると、その男の隣から黒い長髪の男がひょっこり顔を出した。
「どうかしたのか?」
銀髪と知り合いらしい。こちらは普通の和服だ。
ドイツと銀髪の男の間に漂う空気を察したのか、長髪が隣に尋ねた。
「……知り合いか?」
「知らねーよ。こんなムキムキ」
銀髪は相変わらず面倒臭そうに言う。
これは面倒臭いことになりそうだと、ドイツも心中で思った。
★★★★★★★★