悪夢
□かりそめのかりそめ
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オ前…。
目の前にいる攘夷志士が口を開く。
本当ニ、人間ナノカ?
そんなの俺が知りたいよ。
「お。あったあった」
攘夷本陣、白夜叉である俺の個室。
鳥の鳴き声が聞こえる穏やかな昼間。今日は戦がないらしいので、あることを試したかった俺は部屋に引きこもっていた。
行李から見つけ出したのは、輪から切っ先まで全部が鉄製でできた鋏。掌に持ってみるとずっしりと重く、酷く冷たいそれは坂本の私物だ。返し忘れてそのままになってるわけだが、今更引っ張り出したのは坂本の手に返すためではない。
「さーてと」
袖をめくって左腕をさらけ出す。戦う時に篭手をしているだけあって、腕に傷はひとつもなかった。
俺は金属の輪に指を通し少し込めた力で開かせた刃で腕を挟み、そして。
じょきん。
そのまま、輪を内側に閉じた。
肉と骨の弾力で鋏が押し出され、腕の上下には真一文字に傷が精製された。
まあ、刃物で切ったからには当然の結果だ。
予想以上に力が入ってたのか、えぐられたような肉の先には血で汚れた骨が覗いた。ふたつに切った腕からだらだら流れる血は、重力に逆らうことなく下に落ち、着物や畳に汚れを作る。
冗談みたいに血を出し続ける腕を凝視したあと、俺はヘラッと笑った。
良かった俺の血も赤い、と。
だが安心したのもつかの間。そういえば昨日殺した天人の血も、同じく赤かったのだと思い出した。