悪夢

□夕やかな闇
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 気付けばホラ、すぐ後ろ



「銀時」
「なんか用かヅラぁ」
「死にたくなったらいつでも俺に言え」
 常套句もなしに、まるで日常会話のようにサラリと桂は言った。
「散々苦しめたあげく、殺してやるぞ」
 いつも真っ直ぐした光りを携えている瞳は濁りきっていて、ザラザラした地面に直接座る銀時を虚に映していた。
 対する銀時はぬらりと亡霊のように佇む桂を億劫そうに見上げ、血みどろの戦場には似合わない声音で「そいつァありがたいね」と返す。
「そん時になったら、ぜひ頼むわ」
「ああ。任せておけ」
「んじゃお前が死にたくなったら、自害なんて水臭ェことせずに真っ先に俺に言えよ?」
 桂は力尽きたというように銀時と背中合わせになって座り込む。
 まだ温かい体温を感じながら、銀時は後ろに声を投げかけた。
「きれーに殺してやるからよ」
「そうか。では、時期がきたら頼む」
「おう。任せとけ」
 くだらない約束を交わし、2人はどちらともなく視線を同一方向へと向けた。
 そこには。2人がつい先程までかかって殺した、大量すぎる天人の屍と、
 昨日、仲間とはぐれてさ迷っていた2人を、親切にも家に泊めてくれた、一家の住む長屋が炎を上げて燃えていた。
「俺達にできる事は」
「ああ」
「何かを奪う事だけだろうな」
「同感だな」






 

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