シリーズ小説
□曇下に止む
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雨が 降る。
★★★★★★★★
「…ふぅ」
桂は血振りをすると刀を鞘に納め、ひとつ息をはく。
今日も負け戦だった。
まるで敗者を嘲るように鉄色の空からは雨が次々と降り、火薬や血やらで黒ずんだ地面に染み渡る。
欝陶しく思いながら長い髪をかき上げ、数メートル離れた仲間に聞こえるように言った。
「銀時、撤退命令がでた。退くぞ」
「……」
反り血で汚れた銀時の背中は振り向くどころか全く何の反応も見せず、刀を持った腕も力なく垂れ下がったままだった。
「銀時!」
「ん?あぁ…何?」
少し強めに呼びかけたら、今気づいたというような、間抜けた返事を返してきた。
顔は横を向いていたが、雨で少し長さがのびた前髪が銀時の表情を隠している。
「…帰るぞ」
「あー…もう撤退する時間か」
残念そうな、どうでもよさそうな、嬉しそうな、よくわからない声を上げる。
依然として銀時の表情は見えない。
桂以上に血や肉や脂がこびりついている刀を血振りするが、中々とれないらしい。桂もあいにくと布は持っていない。
最終的に舌打ちして諦め、銀時はそのまま刀を鞘に納めた。
「行くか、ヅラ」
「ヅラじゃない桂だ」
銀時の周りには異様に天人の死体がごろごろと転がっている。
呼びかけてからこちら、銀時は自分と一回も目を合わせてこない。
「おい、銀時。待て」
「んだよ」
「銀時…貴様、大丈夫か?」
すでに歩きだしていた銀時は、その桂の一言でピタリと動きを停止した。
銀時はゆっくりと振り向き、桂と向かい合わせになる。顔は確かにこちらのほうを向いていたが、目は合わなかった。
これ以上ないくらいの無表情で、銀時は口だけを動かした。
「大丈夫だよ」
★★★★★★★★
「ふむ…」
「よォ、何唸ってんだ?飴なら銀時が出陣前に食ってたぜ」
「何!?いつの間にか飴の数が少なくなっていると思っておったが、あやつ、また皆の貴重な食料を……まぁ、それは今はいい」