シリーズ小説

□月下に咲く
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 芽がでて膨らんで花が咲いて、

 統べて散る。


★★★★★★★★


「こんなところにいたのか」

 桂は桜の木を見上げて言った。
 樹齢何百年なのか、桜の木は太くてどっしりとしたもので、天高く向かったその枝には桜が咲き誇っている。
 満開だ。
「よぉー」
 桂の呼びかけに応えたのは間延びした声だった。
 薄い灰色の着物を着た男が、枝の間からひょこりと顔をだす。
「銀時」
 桂は呆れたような顔をつくった。
「今何時だと思っている」
「夜中だろ」
「そんな時分に出かけるものではないだろう。いつまでも登ってないで降りてこい」
「やだね」
 言うと、銀時はそっぽを向いて枝の上に寝転がってしまった。
 月光に照らされた銀時の顔を見る限り、本当に降りる気はないらしい。
「全く、貴様という奴は…」
 ため息混じりに言うと、銀時と同じ木の根本にどかりと座った。
 その音に気づいた銀時がちらりと自分のほうを見てくる。
「あれ?帰らないねーの?」
「貴様が帰るときに帰る」
「ちっちぇ子供でもあるめーし、付き添いなんかいらねぇって。先帰ってろよ。明日も早いってオッサンが言ってたぜ」
「オッサンではない、指揮官だろうが」
「どっちでもいいだろ、オッサンなんだし。それより帰ってろって」
「貴様、刀を持ってでなかっただろう。もし天人に遭遇したらどうするつもりだったのだ。大勢で囲まれでもしたら1人では対応しきれんぞ」
「ははッ…」
 銀時は嗤った。
「ほんと、お前くらいだぜ。刀持ってないくらいで俺の心配する奴は」
「そんなことはないだろう」
「いや、ある」
 やけに断定的な口調で銀時は言った。
 桂は視線を上へと向けてみるが、枝と花で阻まれてさすがに銀時の表情までは見れなかった。
 早々に諦め、銀時に問う。
「どうしてそう思うのだ?」
「俺が戦ってたらよ、白夜叉だ白夜叉だ、ってさぁ…」
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