BOOK

□esperanza10
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「…カレシと喧嘩したらしいヨ。迷惑な奴ネ」

自室から出てきた白元はため息をついて告げた。
「それよりピヨ野郎はどうしたアル」
「帰りましたよ。水戸黄門を録画しながら見るらしいっす。九太、始まっちゃうよ。俺たちも行かないと!」
「とびさる!とびさるでるかな!」
連れ立ってリビングへと消えた二人を眺め、困ったように笑うミツハシの横顔をぼんやりと見つめながら白元は白桃色の頬に触れた。
「やっと二人になれたアル」
しかしミツハシはその手を軽く払いのけ、俯いた。
「何いじけてるカ…」
「白元、俺のこと好き?」
突然の質問に白元は絶句した。裏腹に、ミツハシは饒舌に続けた。
「俺、白元が好きだよ。でも俺だけ知らないことが多すぎる。最初は俺が記憶喪失だから刺激しないようにしてくれてるのかと思ってた。でも違う」
悲しそうに潤んだ瞳は白元の影を映して揺れた。
「白元は俺に嘘をつけない。だからこそ俺は聞くよ…白元は俺に大切なこと隠してる。違う?」
「………」
「俺のこの傷をつけたのは白元だって言った。でも、もっと大切なこと隠してる…俺、それを知るまで白元と距離を起きたい」
そう言ってミツハシは一歩下がった。俯いて答えを待つ。ミツハシにとって、これは一つの賭けだった。

「分かった」
白元はそういってミツハシから顔をそらした。唇を噛んで眉を寄せた後、ミツハシに背を向ける。
「白元は、」
力の無い声で背中に声をかけた。
「俺のこと好き?」

静まりかえった廊下では、リビングから蓮と九太の笑い声が酷く遠く聞こえた。

「大切だ。世界中の誰よりも何よりも。私の目に映る世界を彩るたったひとつの大切な存在」
振り向いた白元は小さく微笑んだ。
「私の全てだ・・・でも、過去に私は君の全てを奪った。だから、私は許されない。その証拠に、体は回復しても君は思い出さない。君が全て思い出したとき、私は初めて心から」
ミツハシの頬に啄ばむような口付けをした。
「謝罪し全てを話し、気持ちを伝えるよ」
コクリと頷いて、ミツハシは涙を拭った。

自室に消えた白元の残像をぼんやりと見つめながら最後の涙を零した。
「俺だって同じ気持ちだよ白元、でも言えなかった。なんでなんだろう。なんで俺は思い出せないのかな」
自室の扉の前に腰を下ろしてミツハシは膝をかかえた。
「・・・あのとき雨が降ってた。体が酷く重くて泣き声・・・子供の泣き声・・・あれは」


立ち上がり明かりのついたリビングへ歩みを進めた。ドアを開け二人の少年の姿を認める。

「九太」
振り向いた幼い少年はいつもどおり大人びた笑顔をこちらに向けていた。
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