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□esperanza10
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「粗茶ですが」
コトリと女の前に丸い湯呑み茶碗が置かれた。衝撃的な登場とは裏腹に、女はテーブルで茶を啜っていた。その様子を不思議そうに見つめる九太と蓮、そして両者をキョロキョロと見比べる清が居た。
「蓮はここに監禁されてるんじゃないの?」
「おだまり!」
女がピシャリと羽扇子でテーブルを叩いた。
「失敗したくせに余計なこと言わないでちょうだい!」
「ごめんなさい…」
シュンと小さくなった清の頭を、蓮と九太が撫でた。
「おおかたカッコ良く登場したかっただけヨ。茶飲んだら帰るネ」
冷たく言い放つ白元をチラリと見つめ女は赤い唇をとがらせた。
「あら兄様、自分好みの男の子かこって良く言うわ。私見たんだから!数日前…兄様とこの赤頭が…」


『口開けるアル』
『イヤっ白元さん…俺恐いです…んう…』
『恐いなら目閉じるヨロシ』
『うあっ痛いよぉっ…』
『もうすぐ全部入るアルヨ』
『あうあうっ…』


「ってやってたんだから!」
「ちょ!誤解アル!」
白元には冷ややかな視線が注がれた。中には殺気も混じっている。助けを求めるも蓮は一人顔を手で覆って首を振るばかりだ。
「白元!ミツハシ一筋って信じてたのに!」
「九太、行儀が悪いよ。座りなさい」
ミツハシが制して九太が静かに腰をおろす。救われたとばかりに白元がミツハシを見たとたん彼は凍りついた。

「地獄に落ちろ」

ミツハシの右手の鉄拳が白元の頬を強打した。




「あらじゃあ誤解だったのね」
「皆酷いアル…」
白元は部屋の隅で壁を向いたまま膝を抱えていた。
「だって21にもなって歯医者行くの恐いなんて言えなくて…白元さんが漢方すりつぶして、詰め物とれたとこに応急処置してくれたんです」
まだ恥ずかしいのか、蓮は下を向いて呟いた。しかしアッと声を上げて女を見つめた。
「ていうかあなたは誰ですか?」
女はやっと来たかとばかりに首もとを飾る連なった黒い羽を両肘にかけクスりと笑った。立ち上がり、ガーターベルトで釣られた網タイツのニーハイソックスを惜しみなく晒す。
「私?私はね…」
「不詳の弟白琳アル」
「妹よ!それに今は蘭華って名前があるって何度言ったら分かるの!?」
蘭華はヒステリックに白元に詰め寄り腰に手を当てた。
「それに、兄様だって昔は「バカそれ以上言うなアル」
後ろから羽交い締めにし口を手で覆う姿を見て九太が呟いた。
「おねいさんパンツみえてる」
今度は慌ててミツハシが九太の目を塞ぐ。
「蓮!女のパンツ見たら神様に童貞奪われるよ!」
「みてない!ピンクのフリフリなんかみてない!」


「もー!白元も白琳くんも君たちの存在は子供たちの教育に悪いんだよー!!!」


ミツハシが叫ぶと全員が固まった。
「白琳と一緒にされた…」
「ミツハシくんにまで男の子扱いされた…」
「俺のことも子供って言った…」
「蓮たんもパンツ見てた…」
「ん?くんってことは白琳さんて男の子?」

その中で九太はミツハシからのがれ、白琳に近づき見上げ首を傾げた。
「なんであみあみの靴下はいてるの?」
ほら、と九太は靴を脱いで黄色いあひるの模様のついた小さな靴下を見せた。
「これをはいてると足が寒くないんだよ」
お気に入りの靴下なのかあひるのプリントを撫でている。
「坊やは他に聞きたいことがないの?」
「こいつ男のくせに変な言葉使うアル」
「兄様には言われたくないわ…」
九太はミツハシに怒られる前に靴をキチンとはくと、つま先を鳴らして言った。
「蘭華さんが男性で生まれたのには意味があるんだよ」
澄んだ瞳で白琳の漆黒の瞳を見つめる。
「本当は女の子だったんだ。けど神様が途中で間違えちゃったの。神様だってカンペキじゃないんだ。蘭華さんはその証拠なんだよ」
にっこり笑うと白琳は頬を赤らめて何か呟いた。白元がその言葉に驚き目を見開いているうちに白琳は突然ポロポロと泣き始めた。
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