BOOK

□esperanza9
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「ピヨピヨさん起きないね」
「ピヨピヨがまさかこんなにもろいなんて思わなかったんだよ…」
蓮のベッドに寝かされた清の頬を九太がつつき、蓮はいじけたように唇を尖らせた。しかし九太があることに気づく。
「ピヨピヨ起きてるよ!蓮くん!もう一回やっちゃえ!」
「分かった!」
「こらこら!」
ミツハシが止めにはいると消火器をかかげた蓮の動きが止まった。素早く上から白元に消火器を取り上げられ、清が胸をなで下ろす。
「ほらやっぱり起きてた!」
九太に指をさされ清が怯える。一種のトラウマを植え付けたようだ。
「お、俺は蓮たんを引き取りに来たんだ」
「関取?」
蓮が口を挟むと清は気にせず蓮の両手を握って目を輝かせた。
「俺金貯めてたんだ、蓮たん一緒に暮らそう!俺蓮たんを養いたい!」
突然のことに目を見開いて沈黙していると九太が飛び出した。
「ダメー!!!」
消火器が清の股間にヒットした。




「ピヨピヨとは小さいとき家が隣で兄弟みたいに育ったです」
再び気を失った清をちらりとだけ見て蓮は続けた。
「俺の両親が死んでからも清の家の人たちにはお世話になってて。俺が自立しても清とはたまたま家の前で出くわしたりたまたまバイトが一緒だったりして…。一緒に暮らそうってのは前から言われてたんっすけど、ピヨピヨ天然っていうか時々変だから本気にしてなかったんですよ」
ふう、とため息をついて気絶した清を見つめる蓮の目はどこか優しげだ。
それを見ていた九太が突然走って部屋を出て行った。それを白元が追いかける。
「九太…?」
蓮も追いかけようとしてミツハシに止められた。
「君はここにいないと」
「…はい」
しぶしぶながらに頷くも、その声はいつになく重かった。
「…でも九太、どうしたのかな。俺九太にはいつも笑っててほしいのに…」
そう言って視線を落とした蓮の悲痛なほどの表情に、ミツハシは見覚えがあった。その影が遠い記憶の誰かに重なる。
「…蓮くんは九太が大好きなんだね」
蓮はコクリと頷いて膝を抱えた。
「九太は弟みたいな存在。いつも太陽みたいに笑って俺の心を明るくしてくれるんです。毎日失敗してもあの笑顔があるから頑張れる。だから九太の悲しそうな顔をみると…」
蓮は胸を押さえて俯いた。
「すごく胸が痛い」
「ピヨピヨくんは?」
「ピヨピヨは…」
そう言って蓮は言葉を区切り顔をぱっと上げた。
「…ピヨピヨはきっと俺がいなくても生きていけると思う。でも、九太の人生に俺がいないのは…ちょっと嫌です」
憂いを帯びた顔で笑う蓮の頭をミツハシは撫でた。
「…もうちょっとだね」
「へっ?」
ミツハシは首を振って微笑んだ。






「九太、黙ってちゃ分からないヨ」
唇を尖らせて長い睫を伏せる九太は先刻から口をつぐんだまま俯いていた。白元は屈んで九太の両手を握ると顔を覗きこんだ。
「蓮が追いかけてきてくれると思たっカ?」
カッと頬を染めて顔を反らしたのは図星をつかれたからだろう。
「だって僕…毎日一番に蓮くんにおはよう言って、ただいまも蓮くんに言うんだ。ピヨピヨだかチヨチヨだかが突然でてきて僕から蓮くん取ったんだよ」
そして瞼から大きな涙粒をこぼした。
「なのに蓮くんは嬉しそうだったよ。僕蓮くんと離れ離れになるの嫌だもん!」
ポロポロと涙をこぼし続ける九太の頭を撫でて白元は立ち上がった。
「それは本人に言ってあげなきゃ、アル。九太ワタシに言ったネ」
九太は目をゴシゴシとこすり頷いた。泣いたら少し感情が落ち着いたようだ。
「ありがとう白元」
「お互い様アル」
ニコリと笑って白元は九太に手を差し出した。
「・・・突然、ね・・・」
俯く白元の表情は、誰にも聞こえないぐらい小さく呟くと同時に消えた。

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「蓮くんごめんねー!」
部屋に入るなり、蓮に飛びつき、腰にぎゅう、と抱きついた九太の頭を撫で、蓮は何度も、大丈夫だよ、と優しく言った。
「ミツハシ、九太、蓮、ピヨ野郎と二人きりにしてほしいアル」
とたんに固まる3人の中でも、九太が正直に口をはさんだ。
「白元!みそこなったよ!」
「白元さん!ピヨピヨは変だけど俺の友達なんです!」
続いて蓮が白元の腕につかまった。しかしミツハシは、頷いて、蓮と九太を外へ促した。
「俺、お茶いれてるよ。蓮と九太は手伝ってくれるかな?」
ミツハシがそう言うなら、としぶしぶながらにそれに続いた二人はしかし、九太がスコーンがあったのに気づいたところで気持ちは既にそこにあった。ミツハシだけが、悲しそうに白元の背中を一瞬だけ見つめ、部屋を出て行った。




「さて」
目を硬く閉じた清の枕元に立ち、見下ろす。
「起きるアル。オマエに狸寝入りの才能は皆無ネ」
一瞬だけ眉をピクリとよせて、しかし状況の不利を知ったのか、清はあくまで狸寝入りを決め込んだ。白元はため息をついて胸元にしまいこんだ小さな銃に触れた。しかし一瞬の迷いの後、手を下ろす。そして無表情のまま、布団に手を滑り込ませた。

「わー!!!!!」

飛び上がって股間を押さえた清が涙目で起き上がり、白元をにらみつけた。
「変態!」
とぼけた顔で白元がニヤリと笑う。
「さあ言うアル。誰の差し金カ?」
しかしそれを聞くと清の表情は一瞬固まり、顔を逸らした。その不自然さに両者は沈黙したが、白元が清にもう一度手を伸ばすと、清は勢い良く立ち上がり、部屋の隅へ逃げ叫んだ。
「お婿にいけない!!」
慌てた白元は清の口を手でふさぐ。
「バカ!ミツハシに聞かれたらマズイアル!ちょっと触っただけヨ!」
「ちょっと出たもん!」
知るか、と舌打ちをして、白元はため息をつきながら銃口を清の頬に押し当てた。
「そう簡単にカタギにはなれないアル・・・さあ言うアル」
震えだした清は初めて見る銃に完全に恐怖したようだ。白元は困惑し、眉を寄せた。せめて一般人は巻き込みたくない。
「なら頷くだけで良い。予想は着いている・・・白琳か?」
清は涙を一つこぼして声にならない声で分からない、と吐いた。白元はああ、と思いついていい変える。
「黒髪の・・・チャイナ服を着た派手な男・・・いや見た目は女のチャイニーズか?」
コクコクとたてに首を振った清から銃をはずし、白元は微笑んだ。
「悪かったアル」
清の頭を撫でて指で涙を拭った。

「失礼ね。心も女よ!」
突然現れた影に清はあっと口を開け、白元は背を向けたまま深いため息をつくのだった。

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