BOOK

□esperanza8
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いつもの朝がくる。蓮は決まった時間に流れるアラーム音で目が覚めた。目をゴシゴシと擦りながら携帯を開き時間を確認する。
「眠い…」
もはや携帯よりも容量を占めるストラップたちが操作の邪魔をする。
「これなんだっけ?」
きらりと光る星型のストラップが気になった。自分で買った記憶はないし、それほどセンスが良いとも思えない。
「少し減らそうかな」
そう呟いたとたん、手を滑らせて、ストラップが携帯ごと顔面に落下した。



「おはようございます~」
「おはよう蓮くん。いつものように看板お願いして良いかな?」
「了解っす!」
ミツハシの横を通り過ぎようとして蓮はふと気づいた。
「あれ、ミツハシさん、どっかで転んだんですか?」
「え?そんなこと無いけど」
「なんか歩き方ひょこひょこしてますよ」
そのまま無言にみるみる赤面したミツハシに、蓮は満面の笑みを浮かべた。
「隠さなくても良いんですよ?」
「いや、本当になんでもないんだよ」
「ミツハシさん、昨日の晩、」
「わー!!!!」

「中腰で店の前を掃いてたから腰冷えちゃったんですね」

店の奥で白元がグラスを落とした。



「ただいまー!」
「おかえり九太!」
ランドセルを外してやり頭を撫でると九太がはたと蓮を見つめた。
「あ!店の外に変な人がいたの!僕知らない人だよ?」
「変な人?」
「レンタンシリマヘンカ~って言ってた」
「練炭?誰だろうね。なんか変な喋り方がちょっと白元さんっぽいよね」
くすくす笑って店の奥へ入っていくとミツハシと白元が何か話しているのが見えた。九太は目を丸くした後、きびすを返した。
「あれ、九太どこいくの?」
「あ、えっと、変な人見に行こうよ!!僕もう一回見たいな」
疑問に思いつつも蓮もそれに続いた。
 店内からドアのガラス越しに外を覗くと確かに一人の青年が店の前をうろついていた。15時から17時はメニューが切り替わるので店は準備中としている。その看板を見たり、唸っている様子を見て、突如蓮が叫んだ。

「ピヨピヨ!!!!!」

気づいたミツハシと白元が顔を出した。


「あやしいやつアル。少し可愛い顔してるぐらいじゃワタシ騙せないヨ」
一人の男を囲んで白元が指をさし、その後ろからミツハシと九太が顔を出す。蓮が二組の間に立ち交互に見比べた。
「蓮たん、最近来ないと思ったらこんなところにいたのか!」
「だってバイトやめたんだもん!店長にも言ったよ?」
「俺は聞いてない!聞いてないぞ!」
短い黒髪をくしゃくしゃとかきながら青年は呻いた。
「でもどうしてピヨはこの場所分かったの?」
「ピヨじゃなくて清だってば!それ。俺があげたストラップ」
清が指差したのは星型のストラップだった。
「あーそのセンス悪いストラップはお前が原因アルか。分かったから帰るヨロシ」
「なんだよこの男!こいつか!こいつのものになったのか!?」
「あ、うん。この店のもの(社員)になったよ」
「こいつかー!!」
清が白元に突進して、しかしそのまま長身の白元に首根っこをつかまれその様子を見ながらミツハシが呟く。
「で、蓮くんがいつ白元のものになったって?」
右手のフォークがキラリと光り、白元は青ざめた。
「ち、違うアル!えっと、確かに蓮は可愛いけど、ちょっと味見したいっていうかしたっていうか特に腰のラインが・・・違うアル!」
「白元さんはお知りあいっていう言葉を“お尻合い”って間違えてて、間違えてよく俺のお尻触るんですよね?」
「ば、バカ!」
「蓮たんの可憐なお尻を触っただと!」
形勢逆転とばかりに首根っこをつかまれたまま、清が暴れだした。お世辞にも強いとは言えないパンチが時々白元の頬をかすめる。

「ピヨピヨ!白元さんをいじめるな!エロいけど時々良い人なんだぞー!」


誰が止める間もなくビール瓶が清の頭で割れ、しゅわしゅわと顔を伝った。驚いて白元が手を離すと、清はそのまま落ち、ピクリとも動かなくなった。


「ピヨピヨー!!!!!!」


続く。

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