BOOK

□esperanza7
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朝日が店内に差し込んでミツハシは目が覚めた。すぐ横で同じように頭を伏せてこちらを見つめる蓮がいた。
「…おはようございます」
「おはよう。…怒ってるの?」
「怒りますよ。こんなところで寝たりして」
一つ伸びをしてミツハシはあたりを見渡した。ぼんやり時計をみつめていると奥からバタバタと騒がしい音がした。
「まつアル九太!グリンピース残したらダメアルよ!」
「やだやだやだやだ!」
「あ!ミツハシ、蓮!九太を捕まえるアル!」
「どいてー!」
ぽふんとミツハシの腹に飛び込んだ九太はそのままミツハシに抱きついた。なかなか離さない九太を覗きこむと九太はミツハシをやっと解放した。
「ミツハシをぎゅーってしたかったの」
そう言って笑った九太の顔が一瞬陰ったような気がして問おうとした時には九太は蓮に抱きついていた。
「蓮もぎゅーだよ。白元もぎゅーしたんだよ。白元は疲れてるみたいだから頭なでなでもしたんだよ」
「グリンピースはもう良いから早く学校行くアル!」
「はーい行ってきまーす!」
奥から出てきた白元はどこかばつが悪そうで、九太をせかすのもそれをごまかしているように見えた。
「白元さん照れてるんですか?」
きょとんとした顔を向けて白元を指差し言い放った。

一瞬時が止まった後で、ミツハシがおかしそうに声を出して笑った。普段透き通る声は笑い声ではやや高く幼ささえ感じられて、呆然と見つめていた白元の表情を見て、椅子を逆から座って背もたれを抱きしめながら蓮が微笑んだ。





「蓮君はすごいよね」
看板出しに出た蓮を見つめながらミツハシが呟いた。
「ワタシ別に照れてないアル」
不満げに言う白元は黒い髪をくしゃりと撫でた。彼が内心をごまかすときの癖だ。ミツハシはそれを見てクスりと笑いながら白元の隙をついて唇をついばんだ。目を見開いた白元の瞼を手のひらで塞いでその隙間に舌を滑り込ませ、そっと口内を遊び回る。白元に止められて、初めて白元から離れた。手の甲で、伝いはぐった唾液を拭いながら眉間にしわを寄せる。
「何アルか…」
「仕返しだよ。昨日の」
何でもないように蓮に手を振るミツハシは嬉しそうだ。
「今からオープンアルよ」
「知ってるよ」
「勃ったんですけど」
「だろうね」
「ミツハシ…」
白元がそのばにしゃがんで大きくため息をつく。
「トイレ行ってきたら?蓮君襲ったら…そうだな。店中の食器とシルバーを磨いてもらおうかな」

うなだれる白元の頭をポンポンと軽く叩いてミツハシは店内へ戻った。

「あれ?白元さんどうしたんっすか?」
看板出しを終えた蓮が心配そうに覗き込んだ。
「少し放っておいてほしいアル・・・」

哀愁ただよう白元の後姿に蓮は首をかしげる。向き直った瞬間にドアに額をぶつけた。
「いってぇ・・・」


そのとき蓮の携帯が鳴る。
しかし蓮は額を押さえたままで、一向に気づかないのだった。

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