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□esperanza4
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「オープンです!ESPERANZAへようこそ」
開店と同時に何人かが入店する。初めてのオープンから3ヶ月、カフェESPERANZAにも少ないが常連客というものも付き、ランチタイムには満員になることもしばしばだった。
ドアをあけて客を中へ誘導しながらミツハシは蓮に目配せした。受け取った蓮はカチコチとからだを慣らしながら客を迎える。
「いらっしゃいまぶぇ!テーブルとカウンターせきがこじゃいますがいかがなさいました!」
一瞬ポカンとした客だったが、ふっと笑うとカウンター席を指差した。
「ダメダメアル…」
奥でひっそりと白元がため息をついた。


「お疲れ様〜」
「お疲れ様です…」
看板をしまい終わった蓮がカウンターにへばりついた。
「そろそろ新しいバイト探さなきゃな…」
「新しいバイト?」
「なんでもないっす!」
フルフルと首を振り蓮は食器を磨くミツハシの手をぼんやりと見つめる。
「ここの人たちって怒らないですね…」
「え?怒るときは怒るよ?今日も俺九太を怒ったし白元は怒ると恐いかな。九太なんか怒ると手が着けられないよ」
ミツハシは片目をつぶって最後のスプーンがキラリときらめくのを確認すると、満足そうにシルバーケースを閉じた。
「どうして?」
「俺、まともに働けたためしがないし」
「そう?頑張ってると思うけど」
「気休めは良いっす」
唇をとがらせて髪を指で持て余す様子はまるで子供で、ミツハシは笑いそうになるのを堪える。ふわふわの髪はつい撫でたくなるのだがさすがに怒るだろうと思いつつ、しかし頭を垂れる様子は寂しがってる犬にもみえてしうのだった。
「そのうち俺の方が蓮くん怒らせちゃうかも」
「へ?」
「いや、なんでもないっす!」
「俺のまねしないでくださいよ!」
「ミツハシ〜九太が本読んでってだだこねてるアル〜…ハッ!浮気アルね!ミツハシ!ワタシはどうシタ!」
「白元はそこにいるだろ」
「違うアル!」
三十手前の男が地団太を踏む様は見苦しい。蓮はおかしくて笑い出した。
「俺もう寝ますね。白元さんありがとうございます。」
そう言ってにこりと笑い白元の横を通り過ぎようとすると突然白元に右手を
捕まれた。振り向こうとした瞬間首筋に白元の吐息を感じる。
「オマエ少し可愛いアルな。こんどワタシとイイコトする…」

ガッ

「ごめんごめん手が滑って…」
白元の足元に刺さったフォークを拾い上げてミツハシはフフ、と笑った。
「このフォーク白元が好きみたいだからうっかり気を引かない方が良いみたいだね」
「わ、ワカタヨ…」
「ミツハシさん…」

その日蓮は夢で巨大なフォークに追いかけられたという。



―ところ変わって―
「本読んでって言ったのに…」
青筋を浮かべた九太がカウンターに降臨するまであと1分。

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