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□esperanza3
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「いらっしゃいませ!」
青年の透き通った声が店内に響く。しかしそれも店内の客の騒がしさにかき消された。
「わーお客さんいっぱいだ!」
「あ!九太おかえり!手洗ったら店手伝って!」
「はーい」
パタパタと店内を通り抜けキッチンへ向かう。
「九太くんお帰りなさい!」
「九太くんを待ってたのよ〜」
黄色い声に手を降りつつも九太は滑り込むようにキッチンへ消えた。
「九太おかえりアル。早く店手伝うネ。ワタシはキッチンなんとかするからカウンターをミツハシに任せて九太はテーブル担当するアル」
「了解!」
九太に指示を出しながらも白元の手が止まることはなかった。普段は経営のこと以外はあまり触らない白元だが、混雑時となれば人をさばくにはミツハシの方が適任で、白元は実家が代々中華料理店である血筋のためか能力を発揮した。それにしてもここまでの混雑となると二人で店を切り盛りするのは困難なのだ。
「早く手伝わなくちゃ」
キッチンをぬけてトントンと階段をかけあがり、部屋にカバンを奥と九太はすぐさま店に引き返すのだった。






「もう俺たちだけじゃ無理だよ」
「僕もそう思うよ」
閉店後3人でぐったりとしといると2人がじっとりと白元を見つめた。
「白元も人見知りとか言ってないで人増やそうよ!」
「ワタシ人見知り言ったアルか?」
「え?違うの?」
ミツハシが一つ咳をすると白元はああ、と呟いた。
「ワタシ新しい店員にミツハシ取られたら嫌アル。新しいヒトきっと九太もいじめるネ」
両手で顔を覆い大げさに嘆く白元の耳をミツハシが思い切り引っ張った。
「ええと、辞めた3人は皆なんで辞めたんだっけ?」
「ミツハシが辞めさせたアル」
「白元が3人に何してたか俺が知らないとでも思ってる?」
「何ってナニアr…フゴッ」
「なになにある?」
「九太は聞いちゃだめ!とにかく人手が足りないんだから求人に出します。白元はもうほんと頼むから自重してよ…」
白元は一人唇を尖らせた。
「ミツハシが相手してくれないんだモン」
「僕もいるよ!何すればいいの!?」
「バカ!九太!」
「九太はワタシがじっくり大人にする計画アルからダメ」
「胃が痛い…」
ミツハシの悲痛な思いは誰にも伝わらない。




「こんにちは〜。…なんだよ誰もいないじゃないか」
少年が一人、店内を覗きこんでいた。
「何してるアル、邪魔ネ。ガキは早く帰るヨロシ」
「なんだよ。求人のポスター見て来たのに。ねえここほんとに住み込みまかないつき?俺中卒だけど平気かな?」
「…射程範囲外アル。好みじゃないからダメネ…」
「採用!」
突如飛び出してきたミツハシによって少年の採用がきまった。

「蓮くんか…それ地毛?」
「あっ染めたっす。昔から赤って好きで」
鮮やかな赤色は色白の彼によく似合っていた。
「僕は地毛だよ〜」
「九太は部屋に行ってなさい」
「ミツハシのケチ!」
「ミツハシのケチアル!」
九太を膝にのせ白元まで口を尖らせた。
「白元は真面目に考えるか邪魔するかどっちかにしてよ」
「じゃあ邪魔するネ」
「九太、白元連れてって」
「分かった!」


「さて、こっちも急なんだ。さっそく今日の12時オープンから働いてもらっていいかな?」
ミツハシが人好きする笑顔をむけると少年は目を丸くした。
「え、採用なんすか?」
「働きたいんでしょう?」
蓮は俯きながら頷いて、ちらりとミツハシを見上げた。変わらず微笑む青年に蓮は決意する。
「お、俺精一杯頑張るっす!」
「はい、よろしく。何かあったり何かされそうになったらすぐ俺や九太に言うんだよ?間違いがあったら遅いからね」
真剣な眼差しに、蓮は何度も頷いた。目の前のミツハシや先ほど九太と呼ばれていた幼い少年以外といったら一人しかいないと思うのだが。
「いや、俺ミツハシさんのためにも頑張って白元さんと仲良くするっす!」
「それが駄目なんだって…」

ミツハシは頭をかかえるしかなかった。

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