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□esperanza1
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少年は走っていた。
太陽に透ける金の髪が風に揺れる。マフラーで半分隠れた頭からのぞかせる頬は桃色に蒸気していた。
少年はドアに飛びつき跳ね開けると言った。

「いらっしゃいませ!」




「おかえり九太。でもいらっしゃいませ、じゃなくてただいま、かな?」
グラスを磨きながら、時折オレンジのライトに透かせて目を細める青年は、風のごとく通り過ぎていった少年の後ろ姿に笑いかける。
「でも白元が言ってたんだよ」
「白元は日本語に慣れてないからね」
振り向いた少年は冷蔵庫から取り出した牛乳を片手にふうん、と呟いた。
「それに」
青年は磨き抜かれたグラスを置いてうつむく。
「俺はおかえり、って言うのが好きなんだ」
それきり黙り込んだ青年の視界に突如金色の髪がとびこんだ。
「ただいま、ミツハシ」
カウンター越しに背伸びをして一生懸命に伝える九太に
「おかえり、九太」
と再度言って、牛乳の匂いを漂わせる少年の無垢な姿に笑いかけるミツハシだった。

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