オハナシ。

□Game with the devil! 大迷惑!
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モヤイ像から少し離れた高架下で、一人の少女がガードレールに腰掛けていた。
大通りに較べるとあまり人通りが多いとは言えない場所で、祈る様に足元だけを見つめている。
駅が三つ程離れた場所にある高校のブレザー。胸に着けられた校章は赤地で、少女が二年生であることを示していた。
イマドキに脱色された髪は根元が黒く、取れかけたパーマすらどこにでもいる普通の女子高生らしい。
そんな少女が一時間程その場から動いていないことに、しかし道行く人々は興味すら示さない。


少女の待ち人がこの場所に現れるという噂は、広まっている内の一つだった。
「ドウしたの、キミぃ」
癖のあるアクセントで声をかけられ、少女はハッと顔をあげる。
目の前には怪しげな風貌の青年が立っていた。
ヒョロリと背の高い、ジャケット姿の男。
背の高さ以外特に特徴のない(珍しい長身と言う程でも無いが)男だが、しかし目深に被られた帽子から零れる赤毛が、彼が少女の待ち人であったことを知らせる。
「……よかった。本当なのね」
「ナニがかな?」
「噂を。アナタを待ってたの、私」
言いたい事が纏まらないことに苛立ったのか、小さく舌打ちをしてから、少女は青年の目を見てはっきりと告げた。
「私、ゲームが欲しいの」




「さて、」
少女が去った後、青年はガードレールとは反対の壁に背を預けて呟いた。
「僕はあの娘を何処かで見た気がするけど」
「デモ、ゲームは持ってなかったみたいデスヨ」
「確かに。君がそういうならそうだね。……前に持っていたとかはない?」
「……ナイね。ソレならソレで判りマス」
上を見上げようとして壁に帽子がぶつかり慌てて帽子の位置を直す。
「まぁ、いいさ。彼女の望みさえ叶うなら。ねぇ旧友」

人通りの少ないそこには、まるで人払いでもしたかのように青年の姿だけがあった。

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