オハナシ。

□オーゼンラウルの魔女
1ページ/6ページ

1.4人目の弟子



今日はフィニー・オルグにとって最悪にツイてない日だ。

煙突掃除のバイトをクビになったのは、煙突先に巣を作った阿呆なカラスのせいと、気付かずに火を起こして嫌がらせをした大将のせいだったし、夕飯用にパンを買えなかったのは、だから給料を払ってくれなかった大将のせいだろう。
だというのに、疲れて帰った彼に、実の母親が突き付けた言葉は本当に鬼のようだった。

「あのねぇ、フィン。わたし結婚することになったの」

先制パンチもいいところだ。
甘えたような垂れた目を、さらにいっそう下げ、彼女はとても嬉しそうに話す。
「あのねぇ、ケイジーさんを知ってるでしょう? 会計士をやってる。彼がね、今日プロポーズをしてくれたの」
残念ながらフィニーはケイジー氏を知らない。
誰だ会計士。羨ましい程善い仕事だ。
きっと暖炉に火が入った暖かい部屋のなかで、座り心地のいい椅子に座れる仕事だ。
「でねぇ、フィン。わたしってまだ28じゃない?」
彼女は29歳だ。
実の息子に年齢を詐称してどうしようというのだろう。
まさかその結婚相手とやらにも年齢を詐称しているのだろうか?
籍を入れるときに神殿に行けば一発でばれるだろうその日を楽しみにして、とうとうフィニーは母親に聞き返した。
「うん、母さん。それでコレは何?」
コレ、とフィニーが指したのは大きな鞄だった。
鞄はこれでもかというほどに張り詰めている。おそらく鞄としても本望だろうと思える程に。
「やぁだ、フィン。ママって言ってよぅ」
「母さん、この荷物はなに?」
実年齢よりも大分幼い、愛らしい笑顔で照れるように言う母親をフィニー少年は突き放すように攻める。
世の男性陣の庇護欲を思わず誘う笑顔も残念ながら彼には効かない。
自分と同じ顔を見ても何も思うものか。
「ええ。それでね。わたし、まだフィンの事をきちんとケイジーさんにお話してないのよぅ。お母様のところに居ると言ってあるの」
そして彼女は少し、申し訳なさそうにフィニーの顔を覗き込んで、けれどしっかりとした口調で言い放った。
「これからケイジーさんが家に来るから、悪いけどフィン。ちょっとお母様のところに行ってくれない?」
ああ、母さん。
何が一番の最悪って、今日がボクの十二回目の誕生日だってことだぜ。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ