book6
□拍手ログ3
2ページ/5ページ
リドルの場合
「旅行…?」
私の言葉を復唱するリドル。私が頷くと、少し視線を逸らして思案しているのか、沈黙が続いた。
考えてみれば、リドルに旅行の概念はないのかもしれない。幼いころから教会に預けられていた彼はきっと外出といってもせいぜいその教会の近所だろう。ホグワーツに来て、ある程度出かけるようになったとは言っても大した距離は動かない。そもそもホグワーツでの移動はどう考えても遠足に近いものがあるので、旅行とは言いがたい。休暇はホグワーツにいることがほとんどだし、つまり彼は旅行を経験したことがないのではないだろうか。
「どこに行くつもりなんだ?」
「うーん…。あんまり離れてもなぁ、と思ってフランスかドイツかイタリア辺りを考えてるんだけど。あ、今回は魔法は使わないで、純粋な旅行ね」
「…そうか」
私は魔法使いとマグルの混血でありながら、色々な国々との混血でもある。フランスは私が最も強く血を引くおばあさまの出身地、ドイツは元々の本家があって、イタリアはお母さまの出身地。
普通は同郷の名家同士がくっつくことが常で、他国と繋がりを持とうとするのは王家が多かった。しかし、我が家は他国との恋愛が多く、遡れば私は幾国の血を引き継いでいるのだ。
「今回、お前の両親は旅行について何て言ってるんだ?」
「別に…。ホテルに泊まるなり、親戚の家に泊まるなりすればいいんじゃないか、って。まぁ各地親戚いるから挨拶回りはしておきなさい、って言われてるんだけど」
「そうか」
一応本家の1人娘である私が次期当主。フランクな家柄であるからさして領有権争いなどはないが、一応本家の役割は果たさなければならない。
「旅費はどうするんだ?」
「そこが問題なのよね」
自立をしたい、と常々言っているのに親にもらうなんて。隠し貯金があることは知っているが、遣うのは気が引ける。
でも旅行なんて予定合わせないとなかなか行けないし、リドルは絶対初めは仕事一筋そうだし…うーん…。
「出世払いにしようか」
「?」
「とりあえず未来の自分に金借りる、ってことで」
そうだ。とりあえずは貯金切り崩して、あとからその分多めに貯金をすればいい。きっと私のことだ、リドルと同様初めはバカみたいに仕事をするに違いない。すぐにお金は貯まるはずだ。
「そこまでして行きたいのか?」
呆れたように笑う彼に、「どうしても行きたいの、トムと」と笑えば、「物好きだな」と言いながらもまんざらではなさそうなリドルだった。
(いっそヨーロッパ回る?)
(とりあえずパスポート作らないとな)