夢と現の狭間

□それはね、恋だよ
6ページ/9ページ






十二時、丁度。
びゅうっと風が吹き、ムゲンが現れた。

予想に反して笑みを浮かべるムゲンにわしは眉をひそめる。

「――サカズキ」
「――ムゲン、わしは」
「いいんだ」

ムゲンは微笑を浮かべ、わしを遮った。
あのメモを見たんじゃ。今更言葉は必要ないということかもしれん。
わしはムゲンに任せた。

「迷惑かけたな」
「――ああ、大迷惑じゃった」
「じゃあな、サカズキ。また明日」
「・・・っ、ムゲン、言うことはもうない―――ッ、」

わしはばっと口をふさいだ。
今、何と言おうとした?言うことはもうないのかと?
何を言えというのだろうか。わしは…わしは、ムゲンにこれ以上何をさせようとしたのだろうか。

「――ッ」
「…好きだ、サカズキ」

ムゲンは笑った。
すっと抱きついてくる体を、拒絶する気にはなれなかった。
もうずっと、親しんだ体温。甘えるように縋るように、必死だったムゲン。

その抱擁は、長くは続かなかった。

ぶわり、と風が吹き抜け、七ヶ月付きまとっていた赤は、わしの手から擦り抜けていった。





.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ