夢と現の狭間

□それはね、恋だよ
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それから一ヶ月。
わしはずっとムゲンの求愛を受け続けた。
そもそもムゲンがいきなり求愛しだしたのは半年ほど前じゃからかれこれ七ヶ月ほど求愛されておることになる。
そのたびに殴ったり振り払ったり怒鳴ったり逃げ回ったり。騒々しいことこのうえない。
そして、何とムゲンは手紙攻撃まで始めおった。3日ごとに届くそれには愛の言葉と脈絡のない話題が綴られていた。


【サカズキ、今日も渋いな。好きだ、あ、コーヒー不味い】

知るか。
コーヒー不味いとか、部下に言え部下に。海軍のコーヒーは淹れ方さえ上手ければ美味いのだ。
そもそもムゲンはコーヒー嫌いじゃろ。飲むな。

慎ましく燃やさせてもらった。

3日後

【よぉ、ユキちゃんに噛まれました。痛くはねぇけど。あ、好きです】

ついでか。
センゴク元帥のヤギに噛まれたって…何しとるんじゃァ。
気ィ抜きすぎじゃァ。燃やしておこう。


さらに3日後

【お風呂でおぼれた。走馬灯は全部サカズキだった。これって愛?】

おぼれた!?お風呂でおぼれた!?
馬鹿じゃ。コイツ馬鹿じゃ。わしを勝手に走馬灯に出演させるな。

おっと、火力が強すぎて他の書類にも引火してしまったわィ…。あやついっぺん死んだほうがええんじゃなかろうか…。




さらにさらに3日後

【わんって鳴いてる犬が愛しくてたまらん。サカズキ=犬だし】

ぐしゃっと持っていた書類がひしゃげた。
犬=わしってどういうことじゃァ!!コードネームそのまんま連想しとるんじゃなかろうな!?
なんじゃ、犬=わしじゃから愛しいと、そう言いたいのか?
嬉しくないわ!


さらにさらにさらに3日後

【愛】

せめて文章で寄越せェエ!
単語か!?単語で送ってくるのか、しかも愛って何じゃァア!
何の愛じゃ、しゃんとせんか。

じゅっと燃えた紙のクズを払い、わしは緑茶を流し込んだ。
あやつの手紙を読むたびに気持ちが乱れてならん。


さらにさらにさらにさらに3日後


【聞いてくれ、俺はお前が好きだ!!って夢の中で俺がお前に叫んでた】

「知るかァアア!!」

ついに突っ込んでしまった。
わしを勝手に夢に出すな、告白するな!こんな風な意味不明かつ短く、無駄なもののために妙に上質な便箋を使うな!
封筒に崩し文字で書かれた宛名と差出人。便箋の真ん中に、大概一行。
何じゃ、余計なことしとらんで仕事せえ。
ジュワァッと燃えてなくなった手紙のクズをつまんでゴミ箱へ捨て、書類に目を移した。


さらにさらにさらにさらにさらに3日後

【サカズキが好きすぎて海に飛び込みたい。あ、コーヒー飴って不味いな】

「飛び込んでないじゃろうな!」

思わず言葉に出して、流石にそこまで馬鹿じゃなかろうとわしは胸をなでおろした。そんな馬鹿かもしれないが大将の自覚はちゃんとあるのだ。
そんな馬鹿はしないはずじゃ。
それよりコーヒー飴?コーヒー嫌いが?本当にアホなのかもしれんな。



さらにさらにさらにさらにさらにさらに3日後

【好きだったりしてみます。敬語ってめんどい】

「なら使うなァ!」

〜してみますってお試しか!?
文法は正しく使えッバカタレ!

「お試しでわしに告白ばかりして―――」

たのか、と続きそうになった口をおさえ、わしは驚愕した。
それってつまり、お試しだったら、わしはイライラするとでも言うのか?

――違う違う、文法が違ってたからムカつくだけじゃァ。


さらに(略)3日後

【行ってくる】

「何処にじゃァ!?」

主語が抜けとるじゃろうが!
しかし本当にどこに行ったんじゃ?任務でも入ったんかのォ。
わしは電伝虫を取り上げた。

「クザン、わしじゃ。ムゲンはなんか任務入ったんか?」
「ああ。なんか入ったらしいよ。昨日から」
「昨日?」
「うん。あ、ねぇ今夜暇?」
「?空いてるが…」
「じゃあ飲もうよ、久しぶりにさ」
「お、おお」
「じゃあ今夜九時に部屋にいくから」
「わかった」

よく分からんままに飲む約束をしてしまったが…まぁええか。


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