夢と現の狭間
□それはね、恋だよ
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十二時、丁度。
びゅうっと風が吹き、ムゲンが現れた。
予想に反して笑みを浮かべるムゲンにわしは眉をひそめる。
「――サカズキ」
「――ムゲン、わしは」
「いいんだ」
ムゲンは微笑を浮かべ、わしを遮った。
あのメモを見たんじゃ。今更言葉は必要ないということかもしれん。
わしはムゲンに任せた。
「迷惑かけたな」
「――ああ、大迷惑じゃった」
「じゃあな、サカズキ。また明日」
「・・・っ、ムゲン、言うことはもうない―――ッ、」
わしはばっと口をふさいだ。
今、何と言おうとした?言うことはもうないのかと?
何を言えというのだろうか。わしは…わしは、ムゲンにこれ以上何をさせようとしたのだろうか。
「――ッ」
「…好きだ、サカズキ」
ムゲンは笑った。
すっと抱きついてくる体を、拒絶する気にはなれなかった。
もうずっと、親しんだ体温。甘えるように縋るように、必死だったムゲン。
その抱擁は、長くは続かなかった。
ぶわり、と風が吹き抜け、七ヶ月付きまとっていた赤は、わしの手から擦り抜けていった。
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