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□眼鏡を忘れるな!
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 ハレルヤに眼鏡を踏まれた。
 と、言ってしまえばそれまでなのだが、これはおれにとって多大な損害なのだ。大事件なのだ。なにせ、ストックしておいた眼鏡までもが踏まれたのだから!
 彼に悪意があってしたわけではないことはわかっている。というかそう思いたい。みんなで雑魚寝している枕元に眼鏡を置いていたのだから、そりゃあ踏まれるのも文句は言えない。性懲りもなく二度三度と同じところに置けば、なおさらだ。自分が悪かったのは自覚している。それよりいい加減自室が欲しい。ひとりで広々と寝たい。けれどロックオンが、部屋なんか作ったらおまえらどうせ引きこもりになるんだからだめだ、とか言って聞かないのだからしかたがない。
 まあ、眼鏡の話に戻るが、別に眼鏡がなくとも身体的には視力も悪くないのだからいたって差し障りはないのだ。つまりは伊達眼鏡ということだ。だが、あれだ、そう、やはりイメージというものがあるだろう! 雰囲気とか! 実際、四人で朝食を囲んでいる今、ものすごく、三方向から視線を感じる。眼鏡がない違和感ゆえか。
「ティエリア」
 刹那が低く呼んだ。なんだ。なにか文句でもあるのか。しかし彼は、きっと彼にとって最大限の不思議そうな顔をして、おれを見つめている。なんなんだ。促そうと口を開いたのと同時に、刹那は少しだけ首を傾げた。
「…だれだ?」
 ぶふっと音を立ててロックオンとアレルヤが噴き出した。汚い。というか、刹那。だれだと言っても、さっき、おまえがティエリアと呼んだんじゃあないか。なんだ、それはおれの幻聴だったのか? それとも、ただ単におちょくっているだけなのか? ぶわっと殺気を出したおれに、ロックオンが慌ててフォローに入る。
「いやあ、それにしても、こうやって見たらティエリアってほんとう、美人だよな! 眼鏡かけてないのも、まあ、ありなんじゃあないか?」
 明らかな慰めありがとうございますロックオン。でもおれは断固眼鏡派なんだ。眼鏡がないと落ち着かないんだ。それは見ているあなたたちにとってもそうじゃあないのか。アレルヤが微妙な顔をしている。
「うん…でも、なんか、違うよね。いつもとは変わった感じだ」
「…なんか、気持ち悪い」
「こら刹那! 直球に言うな!」
「ロックオンもね…」
 そうかそうか。けなされているとしか思えないのはおれの気のせいか? いや、実際けなされているのか。そうかそうか。
「ティエリア、早く直しなよ。やっぱり、なんか、違うから」
 壊した当人が言えた台詞か、アレルヤ。踏んだのがもうひとりの人格だったときで、まったく覚えていないとはいえ腹が立つ。ああ、なんだかもう、むなしくなってきた。
 ああ、眼鏡。早く帰ってきてくれ。おまえがいないと生きていけない。そりゃあもうあらゆる意味で、生きていけない。
 ああ、というか、だれか、眼鏡じゃないおれも認めてくれ! それだったら眼鏡がなくても大丈夫なのに!



眼鏡を忘れるな!
(忘れたんじゃあない、壊されたんだ!)

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