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□松雪草
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 恋慕う感情というものは本当に厄介なものだとしみじみ思うことがある。それは自分自身で抑えることができない者にとってはことさら厄介であろう。だが厄介だと思うどころかそれ以前に自覚さえしていない者というのが存在している。そうなると想われていることに気づいている者の方がうんざりする、要は厄介だと感じてしまうことがあるのだ。別にこれは理論に基づいたものでもなんでもなく、ただ単におれがそんな状況に措かれているからこその愚痴ととってもらって構わない。ああ愚痴と言っても本当に悪い感情を抱いているわけではない。うんざりだと、厄介だなどと思っていても向けられる好意に悪い気はしていないのだ。頬をむずがゆくさせるような純粋な気持ちはふわりと心に染み込んでくる。あたたかいそれはまんざら嫌でもない。
 さて話に戻るが、そう、こちらが気づいていないとでも思っているのかじっと見つめてくる目がある。特にこのとき、あの厄介だという思いがこみ上げていつのまにかおれは苦く笑っているのだ。ひとつしかないその瞳が銀色をしていることをおれは知っている。落ち着いた深緑のさらさらした髪が、もうひとつの眼を隠してしまっていることも。その自分よりも年下の“彼”は、おれがわざとらしく振り返ると大概は慌てたように目を逸らす。こちらはもう気づいているのだからいっそのことおれから仕掛けてやろうか、なんてふざけたことを思う度に良心が首を振った。彼自身の言葉で伝えなければならないのだ。彼自身の言葉で、おれに伝えてくれなければならないのだ。そうは言ってもおれはそれほど気が長いほうではない。しかし彼のあの純朴そうなまなざしに、どうしてか待ってやろうという気になっていた。ああ、言われなくてもわかっている。嫌ではないからこそ、待つ気になったのだ。たとえ年下だろうが同性だろうが、いつのまにか彼ならばいいと思ってしまっていた。
 簡潔に言えば、好きになってしまったのである。
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