PandoraHearts

□渇望、そして
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 ひやりと冷えきった壁に背を預ける。じわり、それとは対照的に、下腹部の熱は全身にひろがっていた。唇を湿らせる、せわしなく熱い息。中途半端に下ろしたズボンが、わたしの動きを壁に縫いつけていた。
 とろり、あふれる感覚に腿がびくつく。身体の内側が、すべての臓物が瞬く間に熱を帯びていく。自らの中心を指で慰めながら、レイム、そう一声呼んで、そうして後悔した。ああ、わかっているのだ。こんなことをしても、報われないのだということは。けれどしようがないのだ、ほかにどうしようもないのだ。わたしは、彼に触れてはいけない。あのやさしさを、けして求めてはならないのだ。求める資格など、この身体にはどこにも残ってはいない。あのやさしさを、彼をけがすことなど、あってはならないことなのだ。ああ、そう、理解しているつもりだった。
 あ、ああ、あ。声帯の表面だけを震わせて、空気が通り抜けていく。いつからだ、こんなにくるしくなったのは。痛いほど収縮した身体の筋肉が、幾度もいくども痙攣する。がくがくと震えていた膝が折れ、壁から背中が、一気にずり落ちた。入り口を撫でていたぬめる指先を己の中にもぐり込ませれば、ぞくり、腰が震える。いつからだ、こんなにつらくなったのは。いったいいつから、わたしは。
(彼を、すきになってしまっていたのか)
 内臓が燃えるように熱い、あつい、あつい。四方八方から圧縮されるかのごとく、全身が強ばる。解放されたかった。早く、なにもかもから解き放たれたかった。息が止まる。身体が硬直する。次の瞬間、脳髄に砂嵐が訪れた。
 ぼうっと思考が混濁する。熱く滲む汗、落ち着いていく呼吸。手のひらに、内腿についた白く濁る体液。いつのまにか、背中は完全に、ぬるくなった床に預けられていた。
 ここに彼がいたら、わたしを抱いてくれただろうか。ここに彼がいたら、わたしを抱きしめてくれただろうか。ここに彼がいたら、わたしに、口づけをくれただろうか。
 ああ。わかっているのだ。ちらつく淡い望みに、わたしは眼を閉じた。
 レイム。呟く。そしてまた、後悔した。

渇望、そして
(おわりのない、夜)

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