PandoraHearts
□想音
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とくとく、とくとく。はてさてなんの音だろうと。胸に手を当ててみてもそこがせわしなく脈打っているわけでもない、正体のわからぬそれにぱちりぱちりと目をまたたいていると、茶がかった金の短髪が怪訝な顔をした。
どうした。
ゆらゆら、ゆらゆら。大きな耳飾りが揺れた。ぼんやりとその動きを眺めながら、小さな声でぼそりぼそりと呟いてみる。
なんの音ですか。
ふらふら、ふらふら。視線が泳ぐ。なにも聴こえないがと首を傾げて、眼鏡越しにじっと見つめられる。とくりとくりと、またあの音が。
どこか、わるいのか。
つかつか、つかつか。靴が近づく。胸の手を掴み、手首に滑る指。どくりどくりと流れる血と共に、なにかが全身を巡っている。
こちらは、とくに異常はないが。
ふらふら、ふらふら。肩が揺れる。額に添うた手に思わず目を上げた。その瞬間、ちかりちかりと、視線がかち合った。
熱も、ないな。
ゆらゆら、ゆらゆら。あたたかく身体をたゆたう。やっと思い出せたそれは懐かしいものだった。音を伴いふわりふわりと身体中を巡りめぐる、あの感覚だった。
きみにも、聴こえればいいんですがね。
とくとく、とくとく。不思議そうなきみに早く教えたい。くるりくるりと廻るこの音を、わたしは恋と呼んだ。
想音