ケロロ軍曹
□複写物
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なんなんだ、おまえは。
目の前の赤い肢体が震えた。それは男がよく知るひとの色であった。その妖魔の尖った指先が、口を覆う布を乱暴に剥ぐ。そんな仕草すら、ああこれは彼なのだと錯覚してしまいそうだった。
これはなんなんだ、これは、いったい。
なんのことかと訊く前に首を掴まれ、そのまま身体を持ち上げられる。力を奪われ身体は思うように動かないというのに、腕は後ろにまとめ縛られていた。意外と用心深い性格なのか、それとも、違う目的でもあるというのか。どちらにせよ、やすやすと連れ去られてしまった己が情けなかった。力を込められる手に筋肉は抵抗する素振りも見せず、どんどん首が絞まっていく。
ああ、あ。
掠れた音が喉を通り抜けたその瞬間、痙攣でも起こしたかのように首の手が離れた。床に打ちつけた肩がひどく痛む。見上げた先には、目を見開いて自身の手を見つめる妖魔の姿があった。だめだ、なぜだ。訳のわからない言葉をこぼしながら、妖魔は彼から受け継いだ左の傷痕を歪める。
なぜおれは、おまえをころせないんだ。
なぜ、おれはおまえをころしたくないんだ。ぶれる鋭い手が、頬にそっと触れた。なぜだ、なぜだ、なぜだ。絞り出すような声が徐々に溶けて消えていく。おれは、おれは。間近で見た妖魔の瞳には、彼とおなじ光が映り込んでいた。ああ、すべてが彼のようだった。その触れ方も、接吻も、想いも。
ギロロ、くん。
葛藤する妖魔の腕に抱かれて、男はせつなげにその眼を閉じた。
複写物
(ああ、けれど、きみは彼じゃあない)