ケロロ軍曹

□よくぼうのかたまり
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 冬樹殿、冬樹殿! ねえ、ちょっと、ちょっとだけ、話がしたいであります! なあに、少しだけでありますよ、そんなに長くもならないであります。って、あの、冬樹殿? 冬樹殿、聞いてるでありますか? …いや、聞きたくないならいいんでありますが…まあ、勝手に喋らせていただくであります。
 唐突ではありますが、冬樹殿は、我輩らのことをどう思っているのでありますかな? ああ、いいや、なにも答えなくともいいんであります。我輩が勝手に訊いているだけでありますから。
 多分、冬樹殿のことだし、悪く思ってはいないと思うんであります。ま、「軍曹大好き大好き! ああ、もちろん、みんなのことも大好きだよ! ていってもぼくなんか軍曹たちの捕虜でしかないけどさあ」とか言ってくれてもいいんでありますよ? …ああ、冗談であります。もしかしなくても、「畜生こいつらさっさと星に帰っちまえばいいのに」とか思ってるかもしれないでありますが…そっちはあまり考えたくないでありますなあ。
 でも、冬樹殿。冬樹殿は知っているでありますか? ちゃんと、わかっているでありますか? 
 我輩たちは、侵略者である以前に、軍人なのであります。 ひとを何人も、なんにんもころした、軍人なのであります。ギロロも、タママも、クルルも、ドロロも。我輩も。直接的、間接的問わず、ひとをなんにんもころしているのであります。
 …優しい冬樹殿は、「軍曹がそんなことするはずないよ」とか言いそうでありますなあ。だけれども、これが事実なのであります。軍曹と云うこの階級も、ひとをころして手に入れたようなものであります。戦場でどれだけの能力を持ち、かつ発揮できるか。最低最悪な局面で、どれだけ道を切り開くことができるか。どれだけ仲間を奮い立たせ、勇気づけることができるか。ほうら、これ、ぜんぶ、すべて、ひとをころすことでありましょう? ひとをころすことに、繋がっているでありましょう? 実際にはこれだけではないけれど、ケロン軍で階級が決まるのは主にこれ次第なんであります。
 だから、ねえ、我輩らはみんな、ひとごろしなんであります。軍人なんて、ただのひとごろしでしか、ないんであります。もし戦う意味を失って、軍人を辞めてしまったら、我輩は、ひとりのひとごろしにしかならないんであります。そんなことになったら、かなしいでありましょう? だから我輩らは、戦っていたのであります。
 冬樹殿。いずれこうなってしまうかもしれないことは、わかっていたであります。しかし我々は、あまりにも油断しすぎていた。地球人にも、ケロン人のような狂った人種はいるものなのでありますなあ。我々のアンチバリアを解析して、我々を捕まえようとするなんて。
 冬樹殿。ねえ、冬樹、殿。我輩らはね、我輩は、軍人なんでありますよ。軍人だから、いつ死んだって、どうなったって、いいんでありますよ、ひとごろしなんでありますから。ひとをころしているんでありますから、いつだれにころされてもおかしくないんでありますよ。たとえころされたとしてもいいんでありますよ、ひとごろしなんでありますから。
 冬樹殿。冬樹殿。聞いてばかりじゃあなくて、少しは答えてほしいであります。相槌くらい打ってほしいであります。我輩を見てほしいであります。軍曹って呼んでほしいであります。いつもみたいに、笑ってほしいであります。笑って、しょうがないなあ、って、軍曹って、呼んでほしいであります。
 冬樹殿。どうしてでありますか? なんででありますか? 何故軍人をかばったのでありますか? しにたがりのひとごろしを、なにゆえ?
 冬樹殿、冬樹殿、ふゆ、き、どの。我輩はもう、疲れたのであります。地球侵略なんてもう、どうだっていいのであります。我輩はただ、地球がすきで、地球人がすきで、もちろんケロン人も、仲間もだけれど、でも、夏美殿が、冬樹殿が、だいすきなんであります。それだけでよかったんであります。夏美殿と冬樹殿、それにみんながいてくれたら、ほんとうに、それだけで、でも、でも、でも、でも、でも!
 冬樹殿、冬樹殿、冬樹殿! どうして地球にも愚かなひとがいるのでありましょうなあ! どうして同種族をこんなにしてまで異種族に手を伸ばそうとするのでありましょうなあ! どうして欲望が、身を滅ぼすだけのものだとわからないのでありますかな! ねえ、ねえ、冬樹殿! わからないのであります! 教えてほしいであります! 起きてほしいであります!
 冬樹殿!
 冬樹殿!
 冬樹殿。
 …冬樹殿。
 我輩はもう、行かなければならないであります。また、戦場に戻らないといけないのであります。…なに、心配は無用でありますよ。冬樹殿と、夏美殿は、我輩らがちゃんと、守ってやるであります。だから、そのまま、眠っていてほしいであります。我輩らのことなんか忘れて、平和に、暮らしてほしいであります。
 では、冬樹殿。
 さようなら。

よくぼうのかたまり
(君が一番ほしがっているんじゃないか、軍曹)

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