ガンダム00
□ある春の下で
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刹那、せつな。
肩を揺すられる。おだやかに、おだやかに。ふ、と目を開けてみる。青空の下、風に乗った桜の花びらがひらり、ひらりと舞っていた。
せつな、起きたのか。
視界に入り込んできた男は、後ろに太陽の光を受けていた。その顔が、黒く塗りつぶされている。まったく見えはしない、けれどひどくなつかしい姿だった。ぽん、と頭に手を置かれる。撫でるのでもなく、ただ手を置かれるのに、青年は再び目を閉じた。
なんだ、あいかわらずだな。
耳に心地よい、その声が笑う。ああ、でも、おまえはそれでいい。おまえは、それでいいんだ。やさしい手が、ゆっくりと離れていく。名残惜しげに、ゆっくりと離れていく。胸が、きりりと痛んだ。せつな。呼ばれるのに、目を開けてしまいそうになる。目を開けて、その手を掴んでしまいそうになる。ああ、わかっているのだ。わかっている、これはけして現実ではないのだ。せつな、ああ、ああ、ほんとうに。男の声がする。
おおきく、なったな。
不意に喉の奥が収縮した。駆けあがってくるものを飲み下そうとして、失敗する。それでも青年は目を開けようとはしなかった。それでも青年は、手を伸ばそうとはしなかった。ただ、拳を握りしめて、じっとしているだけであった。
せつな、刹那。
おめでとう。溶けて消えていく声に、青年はようやく瞼を上げる。噴水のある公園の、春の景色だけが、青年の前に広がっていた。
ある春の下で
(おれはまた、生を受けた)