ガンダム00

□罪人と罪の部屋
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 がしゃん。


 陰鬱な澱んだ空気が部屋を満たしている。床には既に踏み場はなく、複雑に割れたなにかの破片の数々が山となって、部屋の中心から広がっていた。その部屋の隅に、ロックオン・ストラトスは座り込んでいる。虚ろな目を床に泳がせて。


 がしゃん。


 またひとつ、繊細な硝子細工を放り投げた。いともたやすく砕け散ったそれの破片が足の甲を切る。暗幕を閉めきった薄闇には錆の臭いが漂っていた。またひとつ。


 がしゃん。


 いつから、と尋ねられても答えられる自信はないだろう。ひとをころした、その分だけ硝子細工を壊していた。この部屋には初めてひとの命を摘み取ったときからの硝子細工の骸が、積み重なっている。またひとつ。


 がしゃん。


 どれだけ壊せばいいか。それもわかっていた。数えていたのだ。その罪を忘れないように。勿論数の問題ではないと理解している。しかしそうでもしないと自分が堪えられなかった。罪から逃げてしまわないように。忘れてしまわないように。またひとつ。


 がしゃん。


 だが、いまとなってはもうどれだけ壊したか、わからなくなってしまった。どれだけ壊せばいいかがわからなくなってしまった。ひとというものはなんて曖昧な生き物なのだろう。機械に身を任せた途端すべて現実味が無くなる。確かにそこには、痛みがあるというのに。悲しみが、死があるというのに。またひとつ。


 がしゃん。


 割れる。山が崩れて片足を埋めた。少し動かせば鋭利なものが柔らかい肉を切った。またひとつ。


 がしゃん。


 血糊が付着した欠片が手の中で転がる。うつくしい乙女の硝子細工を投げ上げた。またひとつ。


 がしゃん。



 騎士。妖精。馬。花。草。またひとつ。




 がしゃん。





 またひとつ。





 がしゃん。






 また、ひとつ。















 がしゃん。

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