ガンダム00

□無機質な指先
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 つめたい感覚が指先からやわらかく伝わる。黒の手袋を外したこの手はいくつもの血に汚れたとは思えないほど清潔に整備されており、否、整備しているのだ。ぱちん、手の内の金属にすこし力を込めて、少し伸びた爪の先を切る。やすりで鋭い断面をまるく、なめらかにしていく。そうして指一本の爪をおよそ十分だろうか、そのくらいの時間をかけてじっくりと整えていくのだ。皮膚を傷つけないよう、慎重に、慎重に。感覚を、狂わせないように。
 感覚というのはもちろん精密射撃の感覚である。命を撃つ感覚のことである。ああそうだ、この行為は準備でしかない。命を奪ったこの手を、ついてもいないその血を洗い流すように流水にさらすいつもの癖も。今のように伸びた爪をそのつど切っていくこの行為も。そうして整備した手を守る手袋をはめるその動作も、しょせんはひとの命を奪いにいくための準備にほかならないのだ。
「ああ…」
 ひとつ、爪の整備が終わった。気だるい腕を上げ、それを月光に掲げる。完璧な流線形は、鈍く光を照り返しおぼろげに、そしてひどく脆くはかなく見えた。
 残りの爪が、静かに整備を待っている。金属をもう一度、指先に添わせればあのつめたい感覚にずく、と胸の底が沈んでいくような気がした。

無機質な指先

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