護るべき大切なもの
□第三話『深まる謎』
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「あー、じゃあ教科書の三十五ページを開いてくれ」
刹護は少々やりにくそうに頭をかく。
何せ、外国とは違いここは日本の中学校。しかも女子校ときている。加えて、生徒たちの好奇心の目が自分に向けられていたからだ。
これでは授業をやっても、きちんとした授業にはならないだろう。
そう早めに結論づけると、教科書を教卓に置いてクラスを見渡した。
「ふぅ……しょうがない。今日だけ俺への質問タイムにしてやるから、次の時間からちゃんと勉強しろよ?」
刹護が根負けして、苦笑しながら自分への質問をこの時間にするのを許すと、クラス中が一気にうるさくなった。
刹護はその光景を見て、どうしたものかと溜め息をひとつ吐く。
「オイオイ、少しは静かにしろ。他のクラスから苦情が来るだろ?」
「皆さん、先生が困ってらっしゃるでしょう? 質問がある人は手を挙げて下さいませ」
またもや委員長と呼ばれていた、お嬢様のような雰囲気の生徒が助けてくれた。
さっきもらった名簿を見ると雪広あやかと言って、委員長をやっているみたいだ。事実、手際の良さと言い、まとめ上げる力と言い、持って生まれた資質だろうか。
委員長であるあやかの言葉で大多数の生徒が手を挙げた。
「じゃあ、佐々木」
刹護は名簿を見ながらランダムに佐々木まき絵を指した。
「身長は何センチですか!」
「確か、一八五センチだ」
まき絵が座るとまた手が挙げられる。
「次、大河内」
とてもしっかりしていそうな大河内アキラを指す。
「趣味は何ですか?」
「読書と囲碁、それにスポーツ全般だな」
刹護はだんだん、リズムにのってきていた。
続いて柿崎美砂を指す。
「好きなものと嫌いなものは何ですか?」
「好きなのは静かな夜と月見、小動物。嫌いなのは人の痛みが分からない奴だ」
こんな風にしていくつも質問に答えていくと、あと少しで一時間目が終わりそうだった。
「これで最後にするぞ。早乙女」
ひどく残念そうな声を尻目に最後の生徒の早乙女ハルナを指した。
「……先生は今ここにいる3-Aの中で、誰が一番気になってますか? あ、好みのタイプでもいいですよっ?」
刹護はハルナの目が怪しく光った気がしたが、あえて気がついていないことにした。
そして考えるように顎に手を当てると、とてもいいことを思いついた。刹護の口角がにやっと上がる。
「ん、そうだな。とりあえず、身長は一八〇はあった方がいいかな。それで、大人な雰囲気……まあ、寡黙な感じの人が好みだな」
刹護がそう言うと、少しだけ静かになった。