「バイトしようかなと思うの」
「何で?」
彼女のいきなりの言葉に怪訝な表情の僕。
別に拘束するつもりはないから好きなこと自由にさせてあげても全然構わない。
僕自身もあまり拘束されるのは嫌いだし。
でも、今までずっと家に居た彼女がいきなりそんなことを言うものだから、その理由が気になった。
ちょっと待ってよ
欲しいと望むモノなら何だって与えてあげる。
例えそれが僕自身であったとしても。
溺愛?
んー、そんな簡単なものじゃないかも。
確かに彼女のことは何よりも愛してはいるけどね。
「何か欲しいものでもあるの?」
そういえばアレが欲しいコレが欲しいと、そういうことを彼女から聞いたことがない。
僕の家に来たばかりの頃は自分の荷物が殆どなかった彼女だけれど、何も望まない彼女に、彼女が必要だろうと思うものは勝手に僕が買い揃えてしまったし。
これは今も現在進行系。
どんな小さなものであっても、欲しいと思うならそれこそ与えてあげたいと思うから。
だから聞いたのに、彼女は小さく微笑みながら首を横にふるだけ。
「じゃあ、どうしていきなりバイトなの?」
拘束する気はない、断じて。
でも何だろう、この不安。
ちゃんと僕の元には帰ってくるだろうけど、今までずっと家に居た彼女が一人で外の世界に出ることへの不安。
「だって…」
「うん?」
戸惑うように見上げる彼女の視線が揺れている。
どうやら伝え難いらしい。
「怒らないから言って?」
悪戯を見つかって叱られる子供のような表情で僕を見つめる彼女に、その頭に手を伸ばしてやり柔らかな髪を撫でてやる。
「だって…ね。ずっと地下に居てたら───」
「うん」
緊張した面持ちの彼女。
でも、聞く僕の方も緊張しているって自分で解る。
「ずっと地下に居てたら…、私、その内に黒魔術でも始めちゃうんじゃないかって、そんなことばかり考えちゃうんだもんっ!」
「───はい…?」
「───だから、バイトでもしようかなって…」
いつも何考えてるのか解らない彼女だけれど。
本当、何考えてんだろ。
「僕の家を何だと思ってるの…」
確かにそういう雰囲気があるかもしれないけど。
いや、実際あるんだけど。
真っ暗だし。
「え、えへへ…。ダメ?」
彼女の望むものは何だって与えてやりたい。
拘束する気もない。
でもね。
「駄目」
「えぅ〜…」
決めた。
「僕と一緒の時以外は外出禁止」
今日、この瞬間から拘束してあげる。
「なーんーでーっ!」
「駄目なものは駄目」
欲しいと思うものは何だって与えてあげたいし、拘束する気もない。
でも、ちょっとだけ拘束してみたいと思った。
意外に嫉妬する僕だから。