小説

□特別な日
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「ご卒業おめでとうございます」

何度この言葉を聞いたことか。まだ予行だというのに言われるのは実に不思議な気分になる。

「なあ、やっぱこれサボってもよくなかった?」
「確かに…」
「あれ?珍しいね、多串くんが俺の不良的意見にのっかるなんて。」
「誰が多串だ!」
「静かにー。しー」
「うぜェ…」

「な…次の休憩時間に抜けね?」
「…あぁ」
「やったっ!」
「そこ、うるさい!」
「「……。」」

上目遣いで聞いてやればイチコロな土方がかわいいな、なんておもっちまう俺。相当な重症患者みたいだ。



「これから15分くらい休憩にしまーす!トイレ済ませといてねー!」

俺たちは小学生か!と突っ込みたくなるような先公のかけ声に嫌気がさす。

「どこ行く?」
「いつものとーこ!」


俺たちは卒業式予行のために教室に置いてきた鞄を取りに行った。教室に未練はない。

俺たちは駐輪場に停めてあるチャリにそれぞれ乗って、目的地に向かう。

毎日とは行かないが、予定が合い、且つお邪魔虫がついてこない時には一緒に通ったあの店に。


そこはただの喫茶店。

行くときはいつも2人だけ。

注文するのも1つだけ。

「オーナー、いつもの頼むよ」
「お、今日も来たか。」

オーナーはただのおっさんだが非常にいい人間だ。
店は今はすっからかんで、俺たちはいつもの奥の方の席に座った。

「もうここにお前と来んのも最後か…」
「何言ってんの?明日も来んでしょ?」
「明日もいいのかよ」
「できればその後もいつか。いいでしょ、ひっじかったくん!」
「…当たり前だろ」

やっぱり結局そう言ってくれる土方くんが俺は大好きだよ。


「はい、お待たせー」

オーナーが持ってきてくれたものは苺のショートケーキとコーヒー。
ケーキは俺の方に、コーヒーは土方くんの方に置く。

そう、ケーキだけで450円。コーヒーだけで250円。ところがケーキとコーヒーのセットで600円というお得セットなのだ。
そして俺はコーヒーなんて苦くて飲めたもんじゃないし、土方くんは土方くんで甘いものが好きじゃない。
そうして生まれたこのシステム。
実は俺たちがここまで仲良くなったのはこれがあったからだ。
しかしそれはまた別の機会に話すことにしよう。


「明日いよいよ卒業式だね」
「あっという間、だな」
「俺、土方くんとの高校生活楽しかったよ、ウザい時もたくさんあったけど」
「まだ明日もあんだろ」
「ホントだわ」

さりげなくウザいなんて言ったのに、俺の扱いがわかってるというか…。

「なあ、明日、明日になったら土方くんに言いたいことがあんだけど、明日までそのこと覚えといてくれる?」

「別にいいけど…じゃあ俺から言ってもいい?」
「は?」

土方くんはまっすぐこっちを見つめるや言った。

「銀時、お前かわいすぎ」



…………


「ちょ、フライングなんですけどォオオ!明日俺が土方くんに言おうと思ってたのに…!つか今名前…」
「ずっと好きだぜ、銀時」
「…フライングし過ぎ」


明日が卒業式という特別な日ではあるけれど、土方くんのその一言で今日がよっぽど特別になる。

「…俺も、土方くんだーい好きですう…」

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