小説
□狂気の理由
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─生きていくことは、何かを護ることと同義です。
何かを護るために初めて私たちは生きることができます。
生きていこうとも思える。
そして護るものがなければ、生きていても屍です。
人は必ず何かを護って生きています。
それはもしかしたら3時のおやつのような生活に埋もれた些細なことかもしれませんがね?
今、あなたたちの胸の中に、ひとつだけ護りたいものを思い浮かべてごらんなさい。
─よくわかんねーや。あえていうなら、そう、生きること、か。
─武士道…でも武士道ってなんだ?
─先生。先生だけは、絶対。
3人とも違う答えを導きだした。
銀時は生きること。
それは生きることを諦めない信念を以て、今まで生に食らいついてきた証であり、そのものこそそのまま生きることだった。
桂はまだ確固たる信念こそ持っていなかったが、先生の教え・先人の生きざまを描いた書物から、武士道という答えを考えた。これから自分の行き方を決めようという一青年に過ぎない。
高杉は、自分にとって絶対的な師、松陽を考えた。即物的である点において、一番はっきりと思い浮かべられた。
この違いが、3人の人生を大きく変えた。
はっきりと浮かんだ人。
その人は
消えてしまった。
「屍、か…」
一人煙管をふかして、甲板に立つ。
どうして護るべきものを護れなかったあの時に、俺は死を選べなかったのだろうか。
なぜ屍になる道を選んだ。
もうわからない。
俺はそう、護りたかったものを奪われたのではない。
結局、
俺が護れなかった、だけ。
狂わねーと…
もうやってけねーんだ
狂気の理由