小説

□冬の花
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冬の凍る空気。
午後から雪が降るとお天気お姉さん結野アナが言っていた。
きっとそれは当たるだろうと思われるほど、厚い雲が既に空を覆っていた。

「あら銀さん、今日はお仕事ですか?」

いきなり声を正面から掛けられ、その姿を確認する。
─お妙だった。

「なんだ、お前か」

「なんだとは何です。新ちゃんが言ってましたよ?最近銀さんが元気ないって。

─どうか、なさったんですか?」

いつの間にか俺と並んで歩いているこいつ。
俺とは逆方向から来たくせに。
いちいち…わかってんだかわかってねーんだか面倒な女だ。

「何もねーよ、新八の気にしすぎだろ?」

「そうかしら?私から見てもなんだかおかしく見えますけど…」

「あーあーもう本当に面倒くせェ!
男にだって言いたくねー悩みの1つや2つあんの!
ったく、お前と歩いてるとゴリラがついてきて気持ち悪ィんだよ」

しつこいそいつに俺はゴリラを話に出した。
しかしにっこり笑うだけだ。
恐ろしいことを想像した。
今日はゴリラの気配がしない。

「ちゃんと予め処分しておいたから大丈夫ですよ、銀さん。」

…これだから女は怖い。


「銀さん、その悩み、私には教えていただけないのかしら?」

「…お前、知りてえの?」

「ええ。」

「聞いてから聞かなかったことにはできねーぞ」

「もちろん。」


─これだから女は怖い。
特にこいつは。

全部お見通しで聞いているのだ。
前から俺の視線に、気持ちに気づいて知らぬふりをし続けて、それでここでそう出るとは。





「─お妙、好きだ」

「私もよ、銀さん」


ふふっと笑ったお妙に、俺は口付けた。

─花の、香がした。

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