小説

□生き続ける願い
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こんなにも辛いことがあるとは思っていなかった。

毎日毎日当然のように太陽は昇ってきて、夜になれば星が回っていた。風ももち
ろん吹くし、雨が降る日もあった。毎日が輝いていたのは、ほんの少し前の話で
あったはずなのに、どうしてあんなにも遠くに感じるのだろうか。あの頃がどう
してこんなにも愛しく感じるのだろうか。季節は巡ることをやめないし、人は生
きることをやめない。どれだけ俺があの日に止まっていたとしても、周りは止ま
ることを知らない。俺の気持ちを知っているはずのあいつ等も、或いは俺と同じ
気持ちであるはずなのに、なぜのうのうと平気な顔で生きているのだ。

俺たちは共に闘った。

この国を守るために。俺たちの平穏な日々を取り戻すために。馬鹿みたいにふざ
けあったあの頃に。先生の教えの通りに、守りたいもののために剣をふるったじ
ゃないか。一緒に生きて、またあの日を迎えようとしたじゃないか。俺たちは理
由はどうあれ、結果的に幕府のために戦ったというのに、奴らは俺たちの大切な
先生を奪ったじゃないか。天人たちに抵抗する意思がないことを示すために、俺
たちの先生は、殺されちまった。

なあ、お前たちはどうして生きていけるんだ?

どうしてこんなにも辛い、苦しい、憎い感情を持ったまま生きられる?

お前たちがそうしてつまらないことで笑い、幸せそうな顔をできるのは、一体な
ぜだ?

俺たちに生きることを教えてくれた先生はもういない。なのにどうしてお前たち
は生きられる。俺には無理だ。だが、先生が生かしたこの命を捨てることは先生
に対する無礼だ。俺はこの命を使って幕府に目に物見せてやる。それが俺の生き
る糧。生きる絶望。どうして何も変わらない。一人の人間が死んだからといって
何かが変わるわけではないのは、攘夷戦争の時にわかっていた。だが、俺は望む。
一人の人間の「死」がいかに重いことかを示したい。俺にとってどれだけ先生が
大切な存在であったかを。この世に刻む。

それが俺の使命

そう思わなけりゃやっていけないだろ?生きられないだろう?苦しみだろうとな
んだろうと全部ひっくるめて抱え込まなきゃ俺は生きていけやしない。たとえそ
れがいくら苦しくても、その先に俺の進むべき未来があるのだとすれば、乗り越
えなきゃならない。諦めるなんて考えは毛頭ない。いつかそこに、苦しみを抜け
た先に待っているモノがあれば、それだけが俺の希望であり、向かうべきものだ。
まだ何も見えてきちゃいない。それでも俺は進まなければならない。お前たちが
やらない代わりに、俺が全てやるしかあるまい。仮に俺を待つモノが絶望だとし
ても、どんな世界が現れようと、明日がわからなくても、俺の願いは変わらない。

変わらず想い生き続けるだけだ。

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