小説

□だから作文は苦手なんだ
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「ちょっと山崎い、後で職員室に来い。」

いきなり銀八先生に呼び出しを食らう。

「え?俺、なんかしましたっけ?」

「何?ここで言って欲しいの?」

「いや!いいです!後で職員室行きます!」

俺が焦って返事をすれば、銀八先生はため息をついた。
本当に俺、何したんだ?



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「失礼しまーす。」

俺は銀八先生と約束した通り、職員室に行った。

「これ、俺に音読してみろ。」

そう言って渡されたのは、夏休みの宿題だった作文。一体どこの小学校だと思いながらやったことを覚えてる。

俺は渋々声に出して読む。



「夏休みの思い出
三年Z組 山崎 退
夏休みには七月十八日から入った。その次の週から、剣道部での最後の合宿があった。部長であり大将である近藤くんは、今回の合宿が最後もせいか、大変張り切っていた。副部長の土方くんは、夏休み中の間合宿にしたかったらしい。言ってはいなかったが、顔にそう書いてあった。沖田くんに関しても、以前とは態度の違いが見られた。沖田くんは珍しく土方くんの命を半分の本気でのみ、奪おうとしていたのだ。つまり本気ではなかったようだ。いつにも増して、剣道部の皆は熱心に練習していた。それというのも、最終目標があったのだ。夏休みの終わり、八月二十九日に大会が控えていたのだ。それで栄光の座を勝ち取るために、剣道部はがんばっていたのだ。皆はこれを高校最後の夏休みとして、美しい思い出にしたいのだろう。合宿が終わった後も、皆の熱意は変わらなかった。
大会の日、銀魂高校剣道部は驚愕の事態に気づく。何ということだろうか、大会は前日に終わっていた。実は皆、八月二十九日だと思っていたのは間違っていた。いいや、前言を撤回しよう。皆が記憶していたし、確認したその日時は正しかった。間違っていたのは、銀魂高校剣道部の感じている日付だった。何が起こったのかは皆未だにわからないのだが、皆が二十九日だと思って会場に行ったその日は三十日だったのだ。いささか不思議な話である。
様々な意味で、皆にとって忘れられるわけがない出来事だった。

…これがどうかしたんですか?」


俺がそうして聞けば、本日二度目のため息をつかれた。

「お前、感情ないの?」

「は?」

あまりに唐突なその問いに、俺は驚いた。ほら、驚いたんだよ?感情あるじゃん。

「この作文…人がどうしたどう思ったって、お前のことなんか何一つ書かれてねーじゃねーか。」

銀八先生に言われて、俺は再び黙読。

「あ…本当ですね…。」

「書き直しな、今日中に提出しないとお前卒業させないから。」



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皆が帰った教室で、俺は一人取り残されていた。
俺は気づいた。
普段は何かと思っているけど、実際には記憶に残る感情がいまいち無いようだ。


あれ?俺、主観とかないの?
客観的すぎる先ほどの己の作文を見て思った。
そう、思っているのに。

いざ何か書こうと思うと、すぐにさっきと同じような第三者視点みたいになってしまう。

ああ、俺、作文向いてないや。



俺は絶対間違っちゃいない事だけ書いた。



「僕は作文に苦しめられた。うまく書けない。

だから作文は苦手なんだ。」


銀八先生は受け取ってくれた。


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