小説

□バレンタインの悲劇
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「あ、今日はバレタデー…だったっけ?新八ー!チョコおくれヨ」


「違う違う、何、そのなんかバレちゃった感じ!バレンタインデーだよ、神楽ちゃん。それにこの日は女性が男性にチョコ渡すものだよ?むしろ神楽ちゃんがくれるべきじゃないの?」



神楽の言葉に新八が返す。相変わらずの長台詞だ。


「新八は古いアルなー。今年は男からも渡すアル。テレビでやってたヨ。」


確かに俺もテレビで見た。しかし…


「神楽ぁ、あれはお菓子業界の陰謀だから騙されんじゃねーよ。あーやって男からも女からも金巻き上げようって魂胆だよ。」



しかしなんだろう、先程から気がかりなことがある。

今日は何かが違う気がする。




「そ、そんなこと知ってるアル!誰がお菓子業界の陰謀にハマるネ!そんなのそこいらのチャラ男チャラ娘だけネ!」



よくよく見れば、神楽の髪型が…違う。
さりげなく髪を下ろしていた。



「…あれ?神楽…おまえ…もしかして…」



耐えていた俺の笑いもついには吹き出してしまった。


「ぷくくっ、もしかしておまえ誰かからもらえると思ってんじゃねーの?!ギャハハ!」

「な、何言ってるネ!私をそこらへんのチャラついた奴らと一緒にするなヨ!ちょっとしたイメチェンアル!」


そういう神楽はあからさまに焦っており、顔を赤くして大声を出して、俺の笑いをかきけそうと必死だ。


「ちょっと銀さん!あんまり神楽ちゃんからかわないであげてくださいよ!銀さんだって去年したでしょうが」


新八はいつも神楽を庇うかのようなことばかり言う。

「俺たちは男だからな、でも神楽が流行に則ってやるとなるとまた…プッ」


ともう一度吹き出せば神楽は赤くなっていた顔、熱やべーんじゃねーの?と心配したくなるほどさらに赤くした。



「銀ちゃんなんてクソ食らえネ!」


ついには家を飛び出してしまった。


「ちょっ、神楽ちゃん!」

新八が追いかけて行こうとしたが引き留めた。

「ほーっとけ、あの年頃はああやって絶望と闘って現実を知っていくんだよ。」



「銀さん…」



新八はこちらを向いて何かを言い出そうとした。
かのように見えた。





「鼻フックデストロイヤー!」


新八の指は見事に俺の鼻に引っ掛かり、痛いいた、いたたた!背負い投げる形で投げられた。



「いってぇな、新八!てめえよくも」
「銀さん…知ってますか、神楽ちゃんがチョコを僕たちのために作ってくれてたの。」


「え?」



新八が言うことにはこうだ。

神楽は去年の哀れな俺たちのためにチョコを作ってくれていたそうだ。
そして今年はテレビであんなことやってるし、あわよくば自分に返礼が即座に返ってくるのではと期待して、少しはそれらしくしたらしい。


どうやら世間一般から考えれば俺に非があるようだ。


「僕は神楽ちゃん連れて帰ってきますから、それまでに謝罪方法でも考えておいてください。」




そういうなり新八は神楽を探しにか、出ていった。






──────────

「銀さーん、帰りましたよ」




新八が声をかけながら上がってきたようだ。




「やっと帰ってきたか」


平静を装い、というかいつも通りの気だるい感じで返事を返す。



「さ、神楽ちゃん」



俺がソファーでふんぞり、反対側に神楽と新八が座った。


正直自分の非を認めるのはとてつもなく居心地悪い感じがするので嫌いだが、今回だけは仕方あるまいと、嫌々ながら考えて、俺は用意したのだった。


「銀ちゃん…これ…」



「ああ、おまえのために作っといた。」



そう、テーブルに載せたのは俺が作ったトリュフ。

手軽だが、美味いハズだ。
何せ俺が作ったんだから。



「食べていいアルか?」

目をキラキラさせながら問う神楽。


「おー」


俺が返事をするなり即座に手を出す。


神楽の口に運ばれたトリュフを見届ける。


目を閉じて味わっているようだ。


次の瞬間には目をパチッと開いた。



「銀ちゃん!これ美味いヨ!銀ちゃんありがとう!大好きネ!」


神楽が本当に嬉しそうに笑った。


これぐらいで人間大好きになれるのだからこえーもんだ。


「じゃあ銀ちゃん、ちょっと待っててヨ」


そう言って台所に走っていく神楽。そこになぜか何か不安を感じた。なんだ。



数秒後、神楽が俯きながら戻ってきた。



「銀ちゃん…」



「あ?」



「銀ちゃんトリュフ作るのに、何のチョコ使ったアルか?」


「え、冷蔵庫の一番上の段に入ってた変な形したチョコの塊だけど?そう言えばあれ、変な形してたな…。」


「銀ちゃん…それ、私が銀ちゃんと新八にあげるのに準備したチョコネ…」



「ああ、通りで変な形してたわけね…あははは、あは…え?」



神楽は今度こそ本格的に怒っていた。



「あの…神楽ちゃーん、ごめんね?」


「もう銀ちゃんなんて知らないアル」




神楽は押し入れに引きこもった。




それから1週間、神楽はもちろん、新八にまで無視された。


ああ、これが子どもに無視される親父の気持ちか。

子ども心をつかむように、今度から少しは注意してみるか、と思った今日この頃。

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